第84話 スーパーダイナミックトラストバーニング

 「スーパーダイナミックトラストバーニング!!!!

やーーーーーー!!!!」


仮面ライダーの必殺技なんだと。


奏が身振り手振りで説明してくれたけどよくわからず、ネット検索したら、動画が出てきた。



「ピンチはチャンス!!

スーパーダイナミックトラストバーーーーニング!!!!」


本当に絶体絶命の時に繰り出す技で、刀を大きく振り上げ、突き刺すように振り降ろす。


たしかに、柚希がやったのと似てるけど。


「ねーー?マ゙マ、ピンチだったから、必殺技やって勝ったんだよね~?」


「うん!!そうだよ~!!奏、よくわかったね」


えっと…………??

そうなのか~~??

捨て身の一撃は、仮面ライダーの必殺技?なの?


これは、笑うところなのかもわからず……

親父も奏に、そうか!そうか!マ゙マかっこよかったな~!奏も剣道やって、ママみたいにかっこいい剣士になるか~?

とか言って笑った。


ママみたいに?

そこは、パパみたいにって言ってほしいんだけど……


 


 夜、実家で寝る時は、川の字に布団を敷く。

俺、峻、柚希の布団に奏が一緒に寝る。

奏は普段、子ども部屋で1人でベッドで寝ているのに、こうゆう時は、ママにべったりしがみつくようにして寝ている。

俺もべったりしたいんだけど、実家では我慢する。

俺の隣りの峻が寝息をたてて眠っている。

奏も寝てるかな。


「ゆき?  起きてる?」

小さな声で聞いた。


「うん、起きてるよ」

眠そうな声で言った。


「あれ、マジで、仮面ライダーの必殺技をやったの?」


「えっ?あはは! さすがに、スーパーダイナミックトラストバーニングをしよう!って思ってやったわけじゃないよ。

捨て身ってお義父さんに怒られちゃったけど、

敷石ケ濵さんよりも私の方がリーチあるから、

遠間からの打ち、出小手を回避、懐に入られて胴を打たれないようにって考えると、左上段からの片手面かなって。

まぁ、実際はじめてやったし、一か八かな感じだったけどね」


すごい……

あの場面で、それを考えてやるのは、とても勇気がいることだ。

普通は失敗するリスクを考えて、動けない。


「怖かったけど、ピンチはチャンスって、仮面ライダーも言ってるからね」


「あははっ!ピンチの時の必殺技だっけ?」


「そう!スーパーダイナミックトラストバーニングね」


「ながっ!!」


こんな長い技名を、奏も柚希もスラスラ言うから笑えるな。


「私、なんで中学の時 剣道部に入ったかって話したことなかったよね?」


なんで剣道部に入ったか

つまり、剣道を始めたきっかけ!


「うん、聞いたことない」


「部活見学に行くまではね、吹奏楽にしようかな~って思ってたの。

私、球技は苦手だからさ。

走るのは得意だったけど、うちの中学 陸上部はなかったしね。

だから、消去法で吹奏楽かな~って。

でね、全然剣道って発想もなかったんだけど、

見学したら、一瞬で心は決まったんだ。

かっこいい!!って思った」


かっこいい!!

それは、俺が、剣道を始めた理由と一緒。

剣道は、かっこいい!!

あれっ?剣道は、かっこいいで、あってるか?

田坂がかっこいいって思ったって話じゃないよな?


「そもそも、私、刀で戦うのがすごく好きでさ、

宇宙警察ジャダンって知ってる?」


「えっ? ジャダン?」


「えっと……知らない?とおるは1個下だから、観てない?

私が、小1くらいだから、とおるは幼稚園児さんだったかな~」


「えっと、特撮のヒーローみたいなやつのこと?」


「そうそう!!あれさ、ジャダン 刀で戦ってたんだけど、もうメチャかっこよくて!大好きだった!!」


ってか、なんでジャダンの話になったんだっけ?


「えっと……」


「あ、だからね、剣道見たら、ジャダンを思い出して、ジャダンみたいになりたいなぁって思って、剣道部に入ったの」


えっ?

きっかけは、ジャダン?

これ、笑っていいか?

いや、笑っちゃまずいのか?

それともネタかな?


「そうなんだ」


「昔、桂吾に話したら、やべーヤツ呼ばわりされたけどね。

私ヒーローものの話、熱く語りすぎて」


須藤桂吾に話したのか、そんな話を。

あっ!!

待って!!

前に須藤桂吾に会った時、帰り際に言ってたじゃん!!


「一個だけ質問してもいい?

彼女とヒーロー物の話する?」


「ヒーロー物ですか?仮面ライダーとか、戦隊物とかですよね?

えっと?彼女とですか?

話したことないです。

あ、息子たちと一緒によくテレビは観ているようですけど。それがなにか?」


「ううん、なんでもない」


あの時、須藤桂吾は嬉しそうに笑った。

自分だけが知っている柚希の話ってことか。

そう言えば、Realは何年か前に仮面ライダーの主題歌をやっていて話題だった。

バリバリのロックバンドのRealが仮面ライダー?って。

あれは、そうゆうことか。

柚希に対しての贈り物だったんだな。


「ゆき、ヒーローものが好きだとか、そんなこと俺 全然知らなかったんだけど」


柚希は、何も答えず、柚希の小さな寝息が聞こえた。


柚希は、あまり自分のことを話さない。

だけど、俺に話さない、のか?

須藤桂吾には話しているのに。

俺は出会ってから22年で、初めて聞いた。

俺は、柚希のことを知らなすぎる……

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