第97話 戸隠へ
土曜日
朝5時半に家を出た。
子どもたちは、まだ寝ぼけ眼。
到着まで3、4時間はかかるし、寝て行きなよって、後部座席のチャイルドシートでタオルケットをかけて寝かせた。
助手席の柚希も眠そうだから、寝ていいよって言ったけど、とおるに運転してもらってるのに、寝れないよって、起きててくれる。
俺は、運転するのも割りと好きだし。
だから、そんなに気を遣わなくてもいいと思うけど、でも、せっかくだから、会話をしようかって思って、柚希にヒーロー物の話を振ってみた。
「前にさ、ヒーロー物の話を、須藤桂吾にしたら、ヤバい奴呼ばわりされた、みたいなこと言ってたじゃん?」
「あぁ、うん!そうね」
「それって、どうゆう話をしたの?
ってかさ、俺、高校時代から結婚して今に至るまで、ついこの間 聞くまで、ゆきがヒーロー物が好きだとか知らなかったし。
なんで話してくれなかったの?」
「え~~?なんで話してくれなかったの?って~
う~ん、別に理由なんてないけどさ~。
ってゆうか、誰にも話してないよ!
桂吾だけかな?そんな話 したのは」
「は?じゃ、逆になんで須藤桂吾には話したの?」
「なんで?う~ん…………
なんでって言われるとな~。
たまたま、そんな話になって、あ、同い年だってゆうから、ウルトラマン観てた?みたいな話をして、話し始めたら止まんなくなったって感じかな?」
止まらなくなるほど、柚希がヒーロー物を熱く語るってゆうのが、全くもって想像できない。
「戸隠まで遠いし、せっかくだから、柚希が熱く語るのを聞きたいんだけど!」
う~ん、しょうがないな~、引かないでよ?
と、前置きをして、柚希が話し始めた。
「じゃ、まずは、宇宙警察ジャダンね!!
わたしが、剣道をはじめたキッカケのジャダン様を語りますけど」
そこからマジで長い話だった。
ジャダンは、◯◯年から◯◯年までの2年間放映されていた。
シーズン1、シーズン2みたいな感じで。
シーズン1では、若かりしジャダンがお父さんの死をキッカケに宇宙警察を目指すって内容で、努力の末、宇宙警察になったジャダンは、お父さんの死の真相を探りながら、宇宙征服をたくらむ悪の組織と闘う。
悪の組織は、人間の善の部分を吸い取って、それを宝石に変えていた。
で、ちょっと割愛するけど。
シーズン2では、お父さんを死に追いやったのが、宇宙警察の長官だったことが判明。
お父さん亡き後、父親代わりにジャダンの良き理解者だった長官がカタキだったことに打ちのめさせるジャダン。
「そこまでの長官との師弟関係みたいのがさ、濃密で、信頼していたし、尊敬していたし、最終的には、敵討ちの決闘になったんだけどね。
その時のがさ、刀をこう構えて、こうして、こうって感じにさ~」
両手を使って、身振り手振り。
「円月殺法、落雷一刀斬り!!
ってさ~!!
もうさ~!!哀しくて!!わたし、号泣だったからね~!!」
これは、ヤバい奴呼ばわりした須藤桂吾の気持ちも わからんでもない。
普段のおっとりとした柚希とのギャップがすご過ぎて、だいぶ引いた。
「あ!!とおる!!引いてるじゃん!!
もう!!引かないでよって言ったのに~!!」
「あははっ!! 引いてないよ!!
引いてないけど、ちょい、ビビってる」
「そうゆうのを、引いてるってゆうの!!
もう!!
はい、こんな感じですけど~」
これでもきっと、軽いサワリくらいなんだろうな。
とりあえず、ちゃんと聞いてみようと思って、ひと通り話してもらった。
ウルトラマン、仮面ライダー、戦隊モノ。
ほぼほぼ柚希が1人で話し続け、目的地の戸隠に到着した。
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