第23話
「この世では、同じ国内にいる相手とは自動的に同じ言語を話すようになっているのだ」
「それは……、違う国の人でもですか?」
「ああ、違う国の人間でもだ」
「その国の言葉を勉強したわけではなく?」
「学ぶ必要などはない。その国内に入った瞬間から、その国の言語を自然と話してしまうのだ」
(なんだ、それは……)
莉々子はその言葉にぽかん、と阿呆のように口を開けてしまう。
「それも、……精霊の“呪い”ですか」
「あまり意識したことはないが……、そうかも知れんな」
つまりそれは、セイアッド王国にいれば自然とセイアッド語を話し、アルカラナ国に一歩でも入れば、その瞬間に意識せず発した言葉でもアルカラナ語になってしまう、ということか。
それを改めて意識した途端、莉々子の頭からはザーと音を立てて血の気が引いた。
「一応聞きますが、それは、話している人間の意識としては、異なった言語を話しているという自覚は存在するのでしょうか……?」
「ああ、存在するが……。しかし、そこまで明確なものではないな。言われてみれば、その国にいる間は、脳内で考えている思考もその国の言語になっていた気も……、いや、国外に出たのはだいぶ前のことだから記憶が曖昧だな」
(脳内の思考までも、言語が切り替わる……!)
ユーゴは何気なく言っているが、大事である。
言語というものは、ある程度の学習の過程や枠組みは全国共通だと言われている。
しかし、成長していく途中で、周りの話している言語を聞き、学習することにより母国語は決定していくものだ。
つまり、学ぶための下地は生来のものでも、どの言語を話すのか、というのは環境による学習に左右されるものなのである。
生粋の日本人同士から生まれても、アメリカで育てば英語を話すようになる、と、そういうわけだ。
学習するということは、言語は知識の一種なのである。知識ということは、記憶によって保持されているということだ。
厳密にはいろいろと専門用語やら細かい分類はあるが、それは割愛する。
肝心なのは、それが、ころころと立っている土地に影響されて切り替わるという事実だ。
それは、つまり……
(脳内の言語野、もしくは記憶中枢などの言語や学習に関わる部位が、外部からなんらかの影響を受けているということだ)
明確に、脳内のどの機能、どの部位のどの段階に影響を受けているのかはわからないが、何者かの手が加えられていることは疑いようもない。
何者か――“精霊”などという第三者によって。
それは、所謂“洗脳”というやつではないのか。
莉々子がこちらに連れて来られて、何故、言葉が通じるのかと疑問に思っていたが、それが理由だったのだ。
というか、莉々子は日本語を話しているつもりだが、そもそもそうではない可能性すら浮上した。
認識そのものを操作できるのだとしたら、母国語を話しているつもりで、この国の言葉を話させる、ということすらも可能なのかも知れなかった。
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