第二章「ついに魔王復活!?」

18.決闘!?

「ゲイン、中々良い杖だな。気に入ったぞ」


 レーガルト王国を発ち、一路北へ向かったリーファ率いる勇者パーティ。道中、昨日購入したばかりの杖を空に掲げ、リーファが満足そうに言う。

 彼女の杖は特注の魔法杖マジックワンド。魔力を増幅させる古木から作られた特別仕様で、先がコの字に曲がっている。ここに様々な魔晶石をつけることで更に強力な魔力を生み出す。

 ちなみにスティングと旅したマーガレットも同じような形状の杖を持っており、彼女は最終的にここに『退魔の宝玉』を装着して魔王との決戦に臨んだ。ゲインが答える。



「そうだろう。結構したんだぜそれ」


「うむ。美しい杖だ。私ももう立派な魔法勇者だな!!」


 リーファは腰につけた彼女専用の短剣に触れながら言う。魔法杖マジックワンドに短剣。魔法勇者を名乗るリーファには必要な装備だそうだ。




「わ、私のも可愛いですよぉ~」


 同じく杖を特注したシンフォニア。僧侶の祝福を受けたのに杖すら持っていなかったのは単にお金がなかったため。

 彼女の杖は僧侶の杖プリーストワンドと呼ばれるもので、回復量を増幅させたりする効果がある。形状は古木から作られたリーファの物とは違い、白銀の鉱物から作られた無機質なもの。表面はツルツルだが、見た目よりもずっと軽い。



「装備に負けないように頑張ってくれよ」


 そう話すゲインの腰にはやや太めの剣。斬れ味より強度を優先させたこちらも特注品。とにかくゲインの強い力に耐えうる性能にこだわった。ゲインがリーファに尋ねる。




「ところで光魔法の方はどうだ?」


 レーガルト王国に滞在中、リーファには『退魔の宝玉』を使って貰わなければならないとして女神アマテラスの祝福を受けさせた。だが祝福を受けていない火炎魔法はできるのに、光魔法は一向に発動しない。宮廷魔導士も頭を抱えたリーファが言う。



「無理だ。できんものはできん。火炎魔法でいいだろ? 青い光って珍しいと聞いたぞ」


 そう、リーファが放つ火炎はなぜか青色。赤色が象徴の火炎魔法にあって青は異色。あれは火炎じゃないという魔導士もいたが、燃え上がるような形状から最終的に火炎魔法に落ち着いた。ゲインがため息交じりに言う。



「まあ、いずれは頼むぞ。魔法勇者を名乗るならそれぐらいはできて当然だろ?」


「ん? あ、ああそうだな!! 私にできないはずがない!! ドンと任せよ!!」


 そう胸を叩いて見せるリーファを見てシンフォニアが苦笑する。





「おい、ゴリラ!!!!」


 そう会話しながら歩いていたゲイン達の背後から、大きな男の声が響く。ゲインはその聞き覚えのある声に、ややため息をつきながら振り返る。



「……何の用だ、騎士団長さんよ」


 それはレーガルト王国騎士団長ヴァーゼル。いつもの白い馬ではなく茶色の馬。フード付きのコートを着ており、一見顔が見えないようになっている。いつも一緒に居る女もいない単騎での登場。

 ヴァーゼルはフードを外し、白銀の髪を靡かせながら言う。



「何の用? 分からないのか、有害なゴリラを駆除しに来たんだ!!」


 馬上から言い放つ声は辺りに響き、自信に溢れている。リーファが尋ねる。


「騎士団長? なんだあいつに恨みでももたれているのか?」


「知らねえよ。まるでストーカーのように付いて来やがる」


 呆れ顔のゲイン。対照的に青ざめた顔のシンフォニアが尋ねる。



「ぎょ、ぎょひゃ~!? き、騎士団長さんって、ええーーーーっ!? ど、どうしてそんな人がゲインさんを駆除とか言ってるんですか~、ふぎゃーーっ!!!」


 これまで滞在していたレーガルト王城。そこの軍の責任者である騎士団長がゲインを駆除しに来たという。ヴァーゼルが馬上からゲインを指差して大声で言う。



「また我が民をたぶらかせたな!! この詐欺ゴリラめ!!! お嬢さん方、この騎士団長ヴァーゼルが来たからもう安心です。さあ、ゴリラから離れて!!」


 自分達のことを言われたリーファとシンフォニアがきょとんとする。ゲインに尋ねる。



「なあ、お前は私達を誑かせたのか?」


「お前が誘っておいてそんな訳ねえだろ」


「だよな」


 そう言って笑うふたりをシンフォニアが見て思う。



(で、でもゲインさんって変態ロリゴリラって可能性もあるし~、ああん、でも助けて貰った恩義もあるから、ふにゃ~、騎士団長とは言えやっぱり信じられないですよぉ~!!)


 両手で顔を抑えながら座り込むシンフォニア。ゲインがヴァーゼルに言う。



「もう俺に関わるな!! ルージュに叱られたんだろ??」



「な!?」


 ヴァーゼルの頭に密かに想いを寄せるルージュの笑顔が浮かぶ。相手は有名な勇者パーティの英雄。届かぬ想いとは分かりながらも騎士団長として傍に仕え、彼女を守るために必死に頑張って来た。



(それを、それを、あんなゴリラが……)


 突如現れた正体不明のゴリラ。奴が来てからと言うものルージュはゴリラの世話にかかりっきりで、あろうことかよく部屋に招き入れている姿も見ている。きっと弱みを握られているに違いない。だからあのルージュ様が得体も知れぬゴリラの言いなりになっているんだと。



 ――許せない!!!


 ヴァーゼルが馬上からゲインに叫ぶ。



「勝負だっ!! ここでこの私と勝負しろっ!!!!」



 響くヴァーゼルの大声。ゲインが頭を抱えながら思う。


(究極に面倒臭い奴だな。あんなので騎士団長が良く務まるぜ、全く。とは言え断るとまたストーカーのようについて来て邪魔だしな……)



 黙り込むゲインを見てヴァーゼルが笑いながら言う。




「あははははっ!! 怖じ気付いたか!? この私を前に恐怖に蝕まれたのであろう!!! ならば誓え、もう二度とルージュ様に近付かないこと、そして今後レーガルトに足を踏み入らぬことを!!!」


 ゲインが大声で答える。



「いいぜ、相手になってやる。ただし条件は『俺が勝ったら二度と俺の前に現れるな』だ。それでいいなら受けてやる」


 ヴァーゼルがこめかみをぴくぴくさせながら言う。



「ぶ、無礼な奴め……、いいだろう。今にそのゴリラの毛を真っ赤に染めてやる!!!」


 ヴァーゼルが馬から降り、ゆっくりと近付いて来る。



「ゲ、ゲインさん、大丈夫なんですか~??」


 不安そうな顔をするシンフォニアにゲインが答える。


「問題ねえ。ふたりは下がってろ」


「うむ。好きにやって来いよ」


 そう言いながら後方に移動するリーファとシンフォニア。ゲインがヴァーゼルの前に立ち尋ねる。



「ご多忙な騎士団長さんがこんな所で油売っててもいいのかい?」


「ふっ、今日は有給を使用した。フードも被っているので誰も気付かないはず。あくまで個人の用事としてきた。だが休日でも邪悪なゴリラを成敗する。私はプライベートでも世の為に働くのだ!!!」


「よく喋る騎士団長さんだな。前任のボーガンの爺さんみたいに無口でやれねえのか?」


「……なに? ボーガン前騎士団長を知っているような口調。まあ、あの老木には適当に隠居して貰ったよ。時代はこの私、ヴァーゼルを必要としている!!!」



 それを聞いたゲインが腰に付けた剣に手をかけ静かに言う。


「気に入らねえな、今の言葉。すげえ爺さんだったよ、あの人は」


 ヴァーゼルも自慢のレイピアに手をかけそれに答える。



「さあ、勝負だっ!! 邪悪なゴリラめ!!!!」



「リ、リーファちゃん。ゲインさんが何だかすごく色々言われちゃってるけど、そんなに悪い人じゃないですよね~??」


「まあな。あいつは見た目はゴリラだが中身もゴリラだ。……ん? 私はこれでフォローしているのか?」


「リ、リーファちゃん……、酷いよぉ~、ふへ~」



 そんなふたりが会話する中、ゲインが叫ぶ。


「さあ、来いよ!! それを抜いたら最後、覚悟しろよっ!!!!」


(ぬぐっ!?)


 いつもの強い圧。ただのゴリラとは思えないほどの迫力。だが今日は違う。ヴァーゼルは覚悟をしてここにやって来ていた。



 シュン!!


 腰につけていたレイピアを抜き、それをゲインに向けて叫ぶ。



「さあ、勝負だっ!!! ゴリラ!!!!」


 ゲインの口角が少しだけ上げる。そして叫ぶ。



「ゆくぞっ!!!!」


 ヴァーゼル同様、抜刀して一気にその間を詰める。



 ガン!!!!


 レイピアと太い剣が甲高い音を立ててぶつかる。



「ぐっ!?」


 予想よりも遥かに強い打ち込みにヴァーゼルの体が後ろに下がる。



「くそっ!! はああっ!!!!」


 しかしすぐに体勢を立て直し、自慢のレイピアの突きを高速で放つ。



(これでゴリラも終わりだっ!!!!)


 数々の敵を葬って来たヴァーゼルの突き。目にも止まらぬ速さで繰り出されるレイピアの突きは、逃げる間もなく相手の体に穴を開ける。



 カン!!!!



「え?」


 ゲインが下段から一気に剣を振り上げる。同時に響く甲高い音。ヴァーゼルが持っていたレイピアはくるくると回転しながら宙を舞い、後ろ地面へと突き刺さった。唖然とした表情のヴァーゼルが言う。



「な、何が起こって……」


 ヴァーゼルの顔の前に突き付けられるゲインの剣。そして言う。



「降参でいいな?」


 悔しさに体を震わせながらヴァーゼルが言う。



「こ、この私が負けるはずなど……、貴様、何か卑怯な手を使って……」



 グサッ!!!


「ひっ!?」


 ゲインが持っていた剣を地面に勢い良く突き刺して言う。



「あんたルージュの部下だろ? だからこれ以上は何もしねえ」


「き、貴様、何を……」


 ヴァーゼルの顔は青ざめ、声も震えている。



「それに騎士団長なんだろ? だったらこんな馬鹿なことをしてねえで、ちゃんと国を守る仕事しろ、分かったか?」


 ヴァーゼルが地面の砂をぎゅっと掴んで大声で言う。



「く、くそおおおおお!!! こんなのは認めんぞおおおお!! 覚えておけっ!!!」


 ヴァーゼルはそう言いながら馬の方へと走って行き、そのまま勢いよく駆けて行った。



(あいつ絶対俺との約束守らねえだろ……)


 そんな彼の背中を見ながらゲインがため息交じりに思う。




「見事だったな、ゲイン」


 そこへ決闘を見終えたリーファとシンフォニアがやって来る。ゲインが地面に刺さった剣を抜きながら答える。


「ああ、何だか疲れたぜ」


 精神的に疲れた。ゲインはそう思った。シンフォニアが不安そうな顔で言う。



「だ、大丈夫なんですか~??」


「ああ、大丈夫だ、……と思う」


 きっとまたやって来るだろう、何となくそう思った。



「さ、早くどこかの街へ行こう。日が暮れる」


「そうだな。お腹もすいて来たぞ」


 そう言って歩き出すリーファとゲイン。



「ああん、待ってくださいよ~!!!」


 それを泣きそうな顔だったシンフォニアが慌てて追いかけた。

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