え、キモ。何言ってんのこいつ?
それから彼女は、陽が暮れるまで戦い続けておった。設置されていたトレニアの花灯(はなあかり)が点灯してからも、
「おっかわりー。はーい、次の方どうぞー」
「ま、まだ戦ってますよ、あの娘」
「なに、まだまだこれからじゃよ」
まだまだアヲイは戦っておった。動きのキレは、一切鈍っておらん。やはり、アオイと同じ力か。お陰でわしも、そろそろ再起できそうじゃわい。
「さてと、わしも行くかのう。どおれっ!」
アヲイの元へと駆けていき、彼女の近くにおった
「あれれー、せんせーじゃないですかー。お昼寝はどうでちたかー、よく眠れまちらかー?」
「寝てなどおらん。無駄口はここまでじゃ、さっさと終わらせるぞ」
「あーあ。これで最初にヘバってなかったら、恰好もついたのにー」
「やかましいわ」
全く元気なアヲイに軽口を返すと、わしらは互いに背を預けた。そのまま息を吹き返したわしら
「お、終わったわい」
「ップハーッ! だ、駄目だ。もう動けねえ」
「よ、良かった。これで海水浴場が再開できる」
「うーわ。良い歳した男共が一人も立ててないなんて、だっさー」
日が半分以上暮れる頃。遂に発生していた
浜辺には死骸があちこちに転がっており、その合間に戦い疲れたわしらが座り込んでおる。ヒルデさんも安堵からか、ドサッと腰を下ろしておった。その中でアヲイは一人だけ立っており、元気にわしらを煽っておる。
「な、なんで彼女だけ元気なんでしょうか。他の方は、こんなになっているというのに」
「あたしってタフなんでー、この程度じゃ満足できないんですー」
(よく言うわい。本当はその
ヒルデさんに対して得意げなアヲイ。疲れ過ぎて口を動かすのも億劫じゃったわしは、心の中で悪態をついた。
彼女の
通常の
そこに派手さはない。堅実であり、基本に忠実であり、同じペースで長距離走を走り続けるようなもの。しかしその内実は、確かに培ってきた努力と才能に恵まれた、紛れもない天才。
「ほーんと、ザコばっか。あたしに最後の最後まで付き合ってくれる人、いないかなー?」
空に昇った満月を背に、こちらをチラリ見ておるアヲイ。わしはそんな彼女の姿を見ながら、心の中で一つの仮説に行き着く。もしや、こやつは。
「……で、アヲイ。すまんが手伝ってくれんか? もう動けんわい」
そんな訳ないかとかぶりを振った後、わしは彼女にヘルプを送った。
相手から体力の源でもある命脈を奪い続ける彼女とは違い、わしの体力は有限。流石に昼間っから戦い通しだったのは、疲れたというレベルではすまん。起き上がる気力もないわい。
「えっ、やだ」
ノータイムで却下された。何故にホワイ。
「だってー、せんせーってば戦ってるあたしを、嫌らしい目で見てたしー」
どうやら揺れ動くおっぱいと太もも、尻を堪能しておったことに腹を立てておるらしい。股間のビッグボーイこそ失ったものの、わしの心はまだまだピチピチの六十歳男子。女体を目で追うのは本能レベルの行為なのでどうしようもないが、それを気に入らんご様子。
「す、すまんかった。つい」
「えー? 聞こえなーい。それに言うこと、足りなくないですかー?」
耳と腰に手をやって謝罪を促してくるアヲイ。何そのポーズ、絶妙にイラっとくる。
「……助けてくれて、ありがとうございましたっ! あと胸とか見てすみませんでしたっ!」
「もっともっとー。できれば舌っ足らずな感じでー、情けなさを前面に出してー」
こっちが下手に出ておれば、つけ上げありおってっ! 爆発しそうな思いを全てブチ撒けるつもりで、わしは息を大きく吸い込んだ。よおく見ておれ、わしの全力の謝罪をぉぉぉっ!
「ごみぇんにゃしゃいぃぃぃっ! わしがわりゅかったのぉぉぉっ! わしは胸見てこーふんしてた変態しゃんでしゅぅぅぅっ! こんなわしを許してぇぇぇっ! 許してぇぇぇっ! そりぇがらめなら、もっといぢめてぇぇぇっ!」
頭を地面につけ、尻を上げ、情けない土下座の見本となるような態勢を取ったわし。どうじゃ、これで文句あるまいっ!?
「え、キモ。何言ってんのこいつ?」
「くぁwせdrftgyふじこlpっ!?」
「あーっはっはっはっはっはっはっはッ!」
こんな感じで、わしらの
ともあれ、これ金を得ることができた。これを元手にして、エイヴェの奴を探さねばならん。「えー、これあたしが稼いだお金なんですけどー?」とケチってきたアヲイに再び三点倒立の土下座を決めつつ、わしは奴の足取りを追う為の金の使い道を考えるのじゃった。
・
・
・
仕事を終え、カナメとアヲイの二人は
「じゃーせんせー、おやすみなさーい」
「 」
すっかり疲れ切って口すら利かなくなったカナメは、白目をむいたまま気絶するように眠りについた。そんな彼女を布団に置いて布団をかけた後、自室に戻っていったアヲイ。後ろ手で扉を閉めて鍵をかけ、敷いてある自分の布団にゆっくりと歩み寄った後に。
「ッハ。はーッ、はーッ、はーッ」
口から息を突発的に吐き出した後に、布団へと倒れ込んだ。肩どころか全身を使って荒く息を吸っては吐きを繰り返している。身体中から汗が一気に噴き出し、めくることもしなかった掛布団を湿らせていった。
「はーッ、はーッ、こ、こんな、程度で、ップハーッ」
酷使し過ぎた全身の筋肉が震えており、今になって痛み始めている。強がりを口にしてみたものの、むしろ呼吸を阻害したが為に、一層の胸の苦しみを覚えていた。
「こんな、ザマじゃ、笑われ、痛ゥッ!」
何とか言葉を吐ける程度に回復してきた頃、次に襲ってきたのは頭の痛みだった。酷使し過ぎた
「こんな、とこ。せんせーには、見せられ、ない。あたしは、天才なんだ」
重くなっていく瞼に抗うこともできず、彼女の視界はどんどん暗くなっていく。
「せん、せー。あたし、ちゃんと、頑張って……」
最後まで言い終わらない内に、アヲイは眠りの世界へと滑り落ちていった。
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