二刀流

「二刀流になりたい」

 

「急になんだ?」

 

「格好いいだろ二刀流。ピッチャーとしてもバッターとしても活躍するみたいな。俺も二刀流を目指そうと思って頑張ってるんだよ」

 

「ふーん。でもお前野球部じゃないじゃん」

 

「別に野球じゃなくてもいいだろ。例えばほら、バスケ部でもあり、サッカー部でもある、みたいな」

 

「それは兼部であって二刀流とは言わないんじゃないか?」

 

「文芸部でもあり、科学部でもあるとか」

 

「文系と理系を併せ持っても二刀流とは言わないんじゃないか?」

 

「漫画同好会でもあり、アニメ同好会でもあるとか」

 

「だからそれ兼部だし、近いんだよジャンルが」

 

「ストーブ部でもあり、扇風機部でもあるとか」

 

「聞いたことねぇよそんな部活。活動内容が気になり過ぎるわ」

 

「テストで満点、運動会では一等賞」

 

「それはただの文武両道。いやまぁ、それはそれで凄いことなんだけど」

 

「そしてクラスメイトも教師も絶対服従」

 

「どんな権力者だよ。絶対悪い力が働いてるよ」

 

「しかしその体制を覆そうと革命軍が影で動いているのだった」

 

「ストーリー付け足さなくていいよ」

 

「ギターを弾きながら歌も歌う」

 

「いるよ。結構いるよそういうミュージシャン」

 

「さらに作詞作曲も」

 

「だから普通にいるってシンガーソングライター」

 

「そんなあいつも、今度田舎に帰るってよ」

 

「ストーリー付け足さなくていいんだよ。しかもなんか切ない話」

 

「動物に好かれない飼育員」

 

「一刀流だし、なんかその、頑張れとしか言えねぇよ」

 

「そんな彼だったが、ある日宝くじが当たり巨万の富を手にする」

 

「良かったじゃないか、これで向いてない仕事も辞められるな」

 

「そのお金は世界中の動物園や野生動物保護活動団体に全額寄付したらしい。相変わらず動物にだけは好かれないけど」

 

「めっちゃ良い人。きっと人間には好かれるから元気出せよ」

 

「料理もできるし、掃除もできる」

 

「家事が得意な人?」

 

「洗濯もするし、買い物にも行く」

 

「ふむふむ」

 

「朝早く起きて子供達の世話をしながら祖父母の世話もして庭の手入れもして、その上で仕事もこなす」

 

「うん、お母さんありがとうだな。結局これが二刀流より何より凄いってことだ」

 

「剣豪、宮本武蔵」

 

「ここに来て正しい意味の二刀流」

 

「散歩をすると運動にもなるし気分転換にもなる」

 

「一石二鳥。もしくは一挙両得」

 

「外はパリパリのチョコレート、中はトロトロの苺ソース」

 

「一粒で二度美味しい」

 

「ピッチャーもできて、バッターもできる」

 

「原点回帰」

 

「世の中にはすごい人たちが溢れているなぁ」

 

「なんか急に結論づけてきた。紆余曲折が極まってたけど、二刀流が格好いいって話ならまぁそうだな」

 

「憧れの存在だよ」

 

「そうだな」

 

「だからこそ俺も二刀流目指して頑張ってるんだよ」

 

「それでお前、頑張るって、何をやってるんだ?」

 

「右手でも左手でも箸を持てるように練習してるんだ」

 

「それはただの両利きだよ」

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