幕間「20回目の転生」
その日、僕は夢を見た。
昼間少し思い出してしまったからだろう。あの20回目の転生の記憶。
人によって造られた魔王の世界を――。
初め、その世界には魔王が存在しなかった。
しかし人に害を成す凶悪な魔物が多く、人間は平穏を手に入れるために戦い続けていた。
そんな世界の小さな村で生まれた僕は、大人たちに守られながら暮らしていた。
傍らには幼馴染みの女の子。歳の近い子供は僕らだけだったから、いつも一緒に遊んでいた。
成長するにつれて大人たちの仕事を手伝うようになったけど、それでも僕らは時間を見付けて2人だけで語り合った。彼女は魔法が得意で、村の近くに現れた魔物を倒すこともある。そういう日は特に甘えてきて、僕はよく頭を撫でてあげていた。
そんな毎日がずっと続くと思っていた。だけど――終わりは突然やってくる。
彼女が14歳の誕生日を迎えたその次の日。彼女は村から消えてしまった。
村人総出で周辺を捜索したが見つからない。
唯一の手がかりは、失踪の前日に村人が目撃したという、ローブを纏った怪しい人たちだ。村の近くを観察するようにウロウロしていたという。
彼女が自発的に村を出て行ったとは考えづらく、そいつらに攫われたんじゃないかという話になった。
その推測が決定的になったのは、街に話を聞きに行っていた人からのこんな情報だ。
近頃、魔法の適性が高い子供が攫われる事件が多発している――。
彼女の魔法はすでに大人顔負けで、難しい魔法をどんどん覚えていた。
それがどこかで噂となって広まり、ターゲットにされてしまったのかもしれない。
人より魔法の素質があったから、人よりがんばっていただけなのに。
許せない。絶対に彼女を取り戻してやる。
僕は親の反対を押し切って、村を飛び出して彼女を探す旅に出た。同じように子供が攫われた話を調べ、ローブ姿の怪しい人たちについて聞いて回った。
そして半年後、僕はようやく彼女を見付けた。
――いいや、彼女の方から現れたのだ。
暴力的な魔力を無尽蔵に放ち、狂ったように破壊を行使する、凶悪な魔王となって……。
魔王は山を抉り、川を吹き飛ばし、道を潰し、村や街を壊しながらあちこち飛び回り、人も魔物も無差別に攻撃する。災厄のような存在だった。
魔王を討つため何人もの人が挑んだが、近付くことすらできずに殺されていった。
倒すことは不可能――。魔王はいずれすべてを破壊するだろう。
人々はいつその身に災厄が降りかかるのか、絶望に震えることしかできなかった。
そんな中、僕は彼女を攫った人たちの拠点を見付けた。
完全に消し飛んでいたその拠点は、辛うじて地下部分が残っていた。
拠点は研究施設だった。やつらは魔法研究者で、恐ろしい魔物に対抗するために最強の魔法使いを生み出そうとしていた。人に限らず魔物からも魔力を抽出し、大量の魔力を一人の人間に注ぎ込む。
愚かで馬鹿げた研究だ。こいつらの方がよっぽど恐ろしい怪物だと思った。
当然、そんなものどんなに研究しても上手くいかない――はず、だった。
幼馴染みの彼女は、素質があったのだ。
膨大な魔力を受け止めることができてしまうだけの器を持っていた。
ただし成功ではなかった。彼女は自我を失い、暴走して荒々しい魔力を撒き散らし、爆発的に広がった魔力は周囲を焦土に変えてしまった。
つまりここが、魔王が誕生した場所だったのだ。
暴走した際、集まっていた研究者たちは一人を残してすべて死んだようだ。その最後の一人も、すべてを書き記した後に地下室で自害。一番奥の部屋に遺体が残っていた。
絶望すると同時に――僕の中に転生の記憶が入り込んできた。それまでの魔王との戦いの記憶がすべて蘇った。
――いや、そんなのどうだっていい――。
前世の僕の願いなんて、今はどうでもよかった。
だけど絶望から立ち上がる力にはなってくれた。記憶と経験、そして女神が授けたスキルは力になる。この力はすべて彼女のために使おう。
世界の平和も、魔王を倒すことも関係無く、この世界に生まれたラックとして、彼女を助けるためだけに戦おう。
魔王となった彼女を止めるには、その暴れ狂う魔力を抑えなければならない。
僕は地下に残されていた施設を利用して、魔力を制御するアイテムを創り出す。
彼女をあんな風にした奴らの研究を利用するのは死ぬほど嫌だったが、それ以上に彼女を助けられないのは死ぬより嫌だ。手段なんて選んでいられない。
そうして創り出したアイテムを手に、僕は彼女に挑んだ。
無尽蔵に魔力をばら撒き、破壊をもたらす魔王――それは、あり得ない魔力を無理矢理入れられ、振り回されている一人の少女だ。僕は必死に、瀕死になりながら近付いて、ついに彼女を抱きしめた。その時、
「――ラック――わたし……もう、やだ……あぁぁぁぁ!」
「――! 大丈夫、君はなにもしていない! 悪いのはぜんぶあの研究者たちだ! だから……お願いだ……正気に、戻ってくれっ!!」
彼女の手にアイテムを握らせる。瞬間、荒れ狂う魔力が空へ一気に放出された気がした。
――気がしたというのは、僕にはもうそれを感じ取ることができなかったからだ。
僕は彼女の足もとに崩れ落ちる。暴走する魔力を受けすぎて右半身がなくなっていた。
視界が真っ赤に染まっていき、なにも見えなくなる。――直前、彼女の顔が正気に戻ったように見えたけど、現実か、幻覚か、もうわからない。
「助けたかった……。僕と一緒に……生き、て――」
名前を呼ぼうとしたのに、それも叶わない。
もう一度、その笑顔を見たかった、のに――。
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