2「ギルドのエースたち」
「おーい、森は片付いたよドレイク!」
「平原側も問題ない」
「お、いいね。あとはゴーレムでも処理できるでしょ。ていうかあたしらやり過ぎた?」
「構わないだろう、ヴァネッサ。明らかにイレギュラーだった。……新人。ラックとゴルタだったな。ご苦労だ」
「は、はい……」
「お、おつかれさまっす」
突然現れた冒険者。黒い鎧に身を包む、銀色の長髪の男性冒険者はドレイクさん。対照的にタンクトップに短パンという恐ろしいほどの軽装、長いポニーテールの女性冒険者ヴァネッサさん。2人ともワーク・スイープの先輩冒険者で、僕らの依頼を手伝ってくれたのだ。
――経緯を説明しよう。
僕とゴルタ、そしてセトリアさんの3人が受けた依頼は思った以上にハードだった。大量発生したビックトードは想定以上に数が多く、休む間もなく戦っていた。そこへ、別の依頼を終わらせた2人が通りかかる。
『あれ見なよドレイク、ものすごい数のビックトードと戦ってる』
『ああ。あの数、2人――いや森にもう1人か。3人で捌ける数では無い』
『ていうかセトリアちゃんじゃん! うちの冒険者たちだよあれ。どうする?』
『加勢した方が良さそうだ』
『だな! さっすがドレイク。話がわかる。さあ暴れて来ようか!』
という感じで加勢してくれることになった。本当にありがたい。
ヴァネッサさんの装備は槍、そして片手用のライトシールド。森の中で平原からすり抜けて来たビックトードを僕と一緒に狩っていた。狭い森の中、豪快に槍を振り回しても木にぶつかることはない。軽装故のしなやかさで流れるように魔物を狩っていく。僕が足を引っ張ってしまう場面もあって申し訳なかった。
ドレイクさんは長剣を軽々扱う騎士のような冒険者だ。広い平原側を担当し、ビックトードを一振りでまとめて倒していた。ゴルタはかなり楽になったはず。これを機に師匠を乗り換えてくれないだろうか。
2人ともギルドのエース級。旧王都に関する依頼も何度も受けているらしい。僕らなんかとはレベルが違った。
でもセトリアさんは同じ腕利きの冒険者。2人と顔見知りだった。
「セトリアちゃんさぁ、この依頼ぜったいブルバック商会でしょ」
「……そうですよ」
「やっぱな~。別に依頼の難易度は高くてもいいんだけどさ、依頼内容と違ったりするのは困るよな。あそこの依頼もう受けなきゃいいのに。ま、そういうわけにもいかないか」
「……はぁ」
セトリアさん、なんか素っ気ないな。あまり仲良くないのかな。
「セトリアちゃん相変わらずだなぁもう。うちらはある意味同志だって言ってんのに」
「あなたとは違います。……何度も説明したわ」
同志? なんのことだろう。
2人がそんな話をしているところに、ドレイクさんが近付いていく。
「ヴァネッサ、今回の内容はブルバック商会だからで済ませていい問題ではないだろう。大量発生とはいえこの数はおかしい。セトリア、この件は俺からギルドに報告しておく」
「お願いするわ。そして早く彼女を連れて行ってください」
「……わかった。ヴァネッサ、先に戻るぞ」
「はいはい。ま、新人君たちもお疲れみたいだし。朝から戦い尽くめだもんね。あ、でも帰る前にひと言だけ。ラックだったよね? なかなかいい動きしてたよ。やるじゃん」
いきなり話を振られて僕は驚いた。
「えっ!? そう……ですか?」
「あたしが言ってんだから信じなよ。むしろ、あんまり合わせてあげられなくてごめんね? 次があったらもうちょい上手くやるからさ。そん時はよろしく」
「そんな! 僕が連携できてなかったんです。足引っ張ってごめんなさい。今日はありがとうございました」
ヴァネッサさんと狙いが被ってぶつかりそうになったり、距離を取り過ぎて援護が届かなかったり、全然息を合わせることができなかった。
「意外と真面目だね。あたしそういうの嫌いじゃないよ。ま、そんな気にすること無いって。初めて組むのに連携上手くできるはずがないんだからさ。……例外はいるけどね」
「ええ、そう……ですよね」
ヴァネッサさんの言う通りだ。お互いの戦いの癖を全く知らないのだから。……そもそも僕はずっと1人で戦ってきたから、連携の経験は皆無だし。
だけど……こないだのケンツとは、何故か自然と連携ができた。
話してみてわかったけど彼とは妙に波長が合う。
つまり、ケンツは例外ということになるんだろうか。
「じゃ、そろそろ帰るよ。新人君たち、またギルドでな! セトリアちゃんもたまにはメシ食いに行こ。さ、お待たせドレイク」
「ああ。――セトリア、問題は起こすなよ」
「……ふん。ドレイクさんには関係無いわ」
問題? やっぱセトリアさんにはなにかあるんだな……。昨日のエドリックさんたちの反応や話を思い出してしまった。
ドレイクさんは背を向け、ヴァネッサさんも手を振って立ち去ろうとする。
僕は慌てて頭を下げて、隣りでぼーっとしているゴルタの頭もぐいっと下げさせた。
「手伝っていただき、ありがとうございました!」
「あ、ありがとうございましたっす!」
「…………」
セトリアさんは沈黙。ドレイクさんは背を向けたまま手を上げ、ヴァネッサさんはもう一度大きく手を振ってくれた。
「気にしなくていいって! あたしらいい仕事したよね、ドレイク」
「ギルドの仲間を助けることは当然のことだ」
うわ、ドレイクさんかっけぇ……。
2人は疲れた様子を一切見せずに歩いて行く。僕らはそれをぽかんと見送っていた。
ていうか……あの2人、自分たちの依頼をこなした帰りなんだよな? なのになんであんなに普通なんだ? 本当にレベルが違い過ぎる。あれがエースの実力か……。
「うひ~……すごい人だったっす。おいらもう、へとへとっす~」
2人が見えなくなると、限界を迎えたのかゴルタがばたりと倒れ込み、大の字に寝転がった。我慢できただけ偉いけど――。
「……ゴルタ、もうちょい基礎体力付けた方がいいよ」
「はいっす~」
まぁそんなことを言っている僕もすでに限界だ。膝ががくがく言うのを必死に堪えている。
ちなみに後方支援に徹していたセトリアさんは平然としていた。だけどそれは楽をしていたわけではない。何度もゴルタに回復魔法をかけていた。ゴルタもがんばっているのだけど、攻撃を食らい過ぎなのだ。もっと敵の動きをよく見ろと言いたい。
彼女が回復魔法を使うと、体力を上げる支援魔法が切れてしまう。その度に突然ガクッと力が抜けるような疲労が襲い掛かるので、結構こっちも大変だった。
「それにしてもすごいっすね~セトリアさんの支援魔法!」
「……は?」
「あ、ゴルタ、それっ――」
ゾクッと空気が冷たくなるのを感じて目を向けると、セトリアさんが凍てつくような視線でゴルタを見ていた。僕は慌てて間に割り込み、
「い、いやぁセトリアさんの回復魔法、すごいです。ゴルタもかなり治してもらってたよな。そっちを感謝するべきだぞ」
「それもそうっすね! 回復魔法すばらしかったっす! ありがとうございましたっす!」
ゴルタの感謝の言葉を聞き――セトリアさんは視線を逸らし、目を瞑る。
「わかっているならいいのよ」
あぁ、よかった。ほっとした。先輩たちが言ってたことは本当だったんだ。
――セトリアさんの支援魔法を褒める時、必ずそれ以上に回復魔法を褒めるように。
回復魔法にプライドがあり、支援魔法だけ褒めるとかなり不機嫌になるそうだ。ゴルタは見事にその禁を破ったのである。困ったやつだ。
だけど、思うに――こんなトラブルはしょっちゅう起きているのではないだろうか。
戦闘の流れ的に、回復よりも支援魔法が先に使われる。そして支援が強力であればあるほど、回復魔法の出番はなくなる。結果、支援魔法だけを褒められることが多くなるはずだ。
「私の支援魔法なんて大したことないのよ」
セトリアさんはぽつりとそんなことを呟く。
大したことがないだって? あれは高度な魔法だった。習得するのも難しかったはず。森の中にいて姿の見えない僕にまで魔法をかけていたし、ドレイクさんたちが加わってからは対象も増えていた。……それなのに、疲労しているように見えない。魔法を使うところ、やっぱり見てみたかったな。
色々気にはなるけど、詳しく話してくれる感じじゃない。このへんで切り上げるべきだ。
「さて、大変だったけど依頼は完了ですね。僕らも少し休んだら帰りましょう。ゴルタ、立てそう?」
「うう、足も腕もがくがくっす。まだ無理っす……」
……仕方ない、少し休んでから帰るか。
正直に言えば、早く帰りたい。ドレイクさんたちのおかげで早めに終わったし、夕飯前に大浴場で湯に浸かりたかった。ここで休むよりもよっぽど疲れが取れるはず。
そんなことを考えていると――
「まだ帰さないわよ。終わっていないんだから」
明らかに不機嫌そうな顔のセトリアさんがそんなことを言い出したのだった。
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