6「笑顔はいつも通り」
「ラック~依頼お疲れさま。明日の依頼はもう受けた? まだならカウンター戻らなきゃ」
「……流れるように依頼を受けるよう勧めてくるね。労いが軽い」
ある日、依頼を終えて宿舎に戻ると、エルナとばったり会った。相変わらず彼女は僕に依頼を受けろ受けろとしつこく迫ってくる。
「どうしたの? ほら一緒にカウンター行ってあげるから、おいでよ」
「いいってば、腕引っ張らないで。ていうか明日のならもう受けたよ」
「おぉっ。ついにやる気を出した? 弟子まで作っちゃったもんね」
「やめて、弟子なんかじゃないから。……はぁ。でもほら、ゴルタがギルドに戻る条件。一緒に依頼受けろっていうやつ。明日が5回目なんだよ」
「ああ~! なるほどね~。あの時は大変だったねラック。ギルドも大騒ぎで、一日中その話で盛り上がってた。バックレを許すなんてたぶん初めてだよ?」
「だろうね。でも時代は変わっていくんだ」
冒険者のなり手不足。ここワーク・スイープも常に人手不足。多少は寛容にならなければいけない。ゴルタが一人前になってくれれば僕も休みを潰されずに済むかもしれないし。……そうなるまでの苦労と釣り合うかは微妙なところだけど。
「なり手不足かぁ。みーんなゴーレムを作りたくなっちゃうんだね」
「ゴーレムの需要が高すぎて、そっちはそっちで人手不足らしいよ。色んなところで開発競争が起きてるみたいだし、少しでも興味を持った若手を掻き集めてるんだってさ。……それで余計に冒険者が減ってるって、こないだリフルさんが愚痴ってた」
「ふ~ん。面白いのかな、ゴーレム作るのなんて」
「さあ……。でも、そっちに人が流れるちゃうのは、わかる気がする」
「どうして? 今ラックも言ったじゃん、ゴーレム作るの大変なんでしょ? わたしも噂で聞いたことあるよ。朝から晩まで働かせられるって」
「それはそれでヤバそうだけど……。でも冒険者と違って、ゴーレム制作者は自分の身を危険に晒すことはない」
もちろんゴーレム作りにも事故はある。制作中のゴーレムが暴走して怪我人が出たという話をたまに聞く。だけどそれでも、危険度は魔物と戦う冒険者の方が圧倒的に上。だから若手はゴーレム制作に流れていくのだ。
「う~ん、そっかぁ。そうなのかぁ。そうなっちゃうか~」
どこか不満そうな顔のエルナ。だけど次の瞬間にはパッと笑顔になる。
「でもラックは大丈夫だよね。約束したもんね? ギルドのエースになるって」
「エースになるとは言ってないってば。もちろん辞めるつもりはないけどさ」
とある事情により冒険者の適性がなかったエルナの代わりに、僕が頑張る。
確かに僕はそう言ったのだけど、過度の期待はしないで欲しい。この40回目の転生は女神が用意してくれた休息。魔王だっていないのだから。
「おーいラック、なんだよ先に食堂行ったんじゃないのか?」
「ラック師匠! 待っててくれたっすか?」
宿舎の入口でエルナと話し込んでいると、後ろからケンツとゴルタがやって来た。
「あ、弟子くんの登場だ」
「だからゴルタは弟子じゃないってば。……ゴルタ、ケンツ。ちょっとエルナと話してただけだよ。食堂に行こう」
「そういうことか。エルナちゃんおつかれー。いやぁ腹減ったなぁ、早く行こうぜ」
「エルナさんおつかれさまっす! もうペコペコっすよー」
「う、うん、二人ともお疲れさま」
ケンツとゴルタは宿舎に入り、エルナに挨拶してそのまま食堂へと向かう。僕も後を追おうとして、背中をちょいちょいとつつかれた。
「エルナ? どうしたの?」
「ね、ラック。最近、あの二人……ゴルタくんはともかくとして、ケンツくんとも仲良いよね。友だちになったんだ?」
「ああ……まぁ友だちかどうかはわからないけど。でも先日の一件以来、よく話すようになったよ。依頼を一緒に受けたり」
「ふ~ん、もう一緒に受けてるんだ」
「一回だけ。ゴルタも一緒だったけど」
「あ、そっか。例の条件でね。うんうん」
「その条件も明日で終わるし、今度ゴルタ抜きの二人でなにか受けてみようって話になった」
「え……そ、そうなんだ。ふ~ん」
「ん? どうかした?」
「ううん! なんでもないよ。うんうん、たくさん依頼を……あ、ほらゴルタくんたちが手を振ってるよ。早く行きなよ!」
「ああ、うん。ていうかエルナも食堂の仕事あるんじゃないの?」
「わたしは別の仕事終わってからだから! またあとでね!」
「そっか、仕事がんばっ¥て」
「――うん!」
エルナは笑顔で頷いて、食堂とは反対側に駆けて行く。僕はその背中を見つめながら、少し首を傾げた。
「ちょっと様子がおかしかったような気がするけど……最後の笑顔はいつも通り、だよな?」
どことなく違和感を覚えつつも、その正体はわからず。ラックはケンツたちに呼ばれて食堂に急ぐのだった。
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