有栖の悩み

「今日呼び出したのはな、璃杏について相談があるからだ。」

 学校の授業中である平日。仕事中だった白雪は、これも一つの業務と割り切り有栖からの呼び出しに応じていた。

「ああ、いいですよ。すみません、ココアを一つ。有栖さんは?」

「カフェオレを。」

 ウェイトレスが立ち去るのを見てから尋ねる。

「カフェオレなんて飲みましたっけ?」

 甘党な自分とは違って、いつもブラックコーヒーだったと記憶している。

「璃杏が毎日飲むからな。好きになった。」

 若干気色悪い笑みを浮かべながら語る様子を見て、二人の状況を瞬時に理解。これは、べたぼれだ。


「それで、ご相談とは。」

 既に15分ほど、のろけ話に付き合っている。休み時間を多めにもらえるように手配しておこう。

「璃杏の家庭環境について、調べてもらいたい。」

 白雪は吸血鬼における政府、のような組織を取り纏めている。人間の身辺調査なんて朝飯前だ。

「ご本人に聞くべきでは。あまりお勧めしませんよ、それは。」

 甘くもほろ苦い香りが広がる。

「当然分かっている。だが、おかしすぎる。危機管理能力の欠如、貞操観念の狂いよう。…気づいているだろう。」

 吸血鬼の存在への対応、反応。有栖さんという異性への行動。

「父親からの暴力があったとは、考えやすいですね。」

 溜息をつく。彼は私よりずっと頭が切れる。1000年、寿命間近の吸血鬼。私以上に考えは及んでいるのだろう。その上での判断。

「了承しましょう。ただし、最善はやはり璃杏さんと話し合うべきです。有栖さんの事を好いていることに起因する行動に、貴方は愛を注ぐべきです。」

「助かるよ。」


 調査に関しての詳細を決め、「ゆっくりしていけ。」と有栖さんは先に行ってしまった。

「本性が、出始めてますねえ。」

 ゆっくりなんて時間はありませんよ、と念を送っておく。直ぐに各所へ連絡を取り始めた。既に純血の問題が山積みだということを忘れてはいけない。

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