第五章
鉄仮面の下(1)
離宮に警備の兵士たちを置いてから、数日。
「はあ……」
鉄仮面を脱いだスクーカムは、寝台に疲労困憊した体を投げた。
山賊対策ための作戦会議が終わり、スクーカムが寝室に入った時にはすでに深夜になっていた。
ここ数日、いつもの半分ほどしか睡眠時間が取れていない。
離宮の警備リーダーからの報告で聞いた話によると、兵たちは抜かりなく離宮の警護を行っているようだった。
『神が作りし生物である猫と、猫を操るソマリ様のためならば、命を賭しても構いません』
などと、相変わらず申してもいた。
そんな思いを胸に抱いている彼らに任せていれば、離宮の安全は保障されているといっても過言ではないだろう。
しかしスクーカムは、あれ以来離宮に赴いてはいない。山賊を捕らえる作戦の指揮のため多忙を極めているためだ。
離宮に常駐し、ソマリと猫と共にいる警備兵たちがなんと羨ましいことか。
(だが山賊さえ捕まえてしまえば、もっと暇ができるだろう)
早く一網打尽にし、猫に会う時間を確保したいものだ。
相変わらず山賊たちの拠点は発見できないものの、集落を襲った山賊を数名捕えることに成功した。
彼らを尋問した結果、驚くべき事実が判明した。
山賊たちの大半が元々はサイベリアン王国の下級兵士たちだったのだ。
彼らは戦場での敵前逃亡や、訓練の際の怠慢な態度などを理由に、階級を剥奪されたり僻地へ左遷されたりした者らしかった。
サイベリアン王国は臆病な男には厳しい。少しでも怯懦な態度を見せた者は、容赦なく切り捨てる。
それがこの国の強さの所以でもある。
しかし山賊たちの元々の素性が判明し、ますます舐めてかかれなくなった。
彼らは軍人出身である上に、サイベリアン王国に対して並々ならぬ恨みを募らせている。ただの山賊だとあなどれば、兵士たちは返り討ちに遭うだろう。
実際彼らは、警備を手薄にしたタイミングで襲撃をかけてきたり、巧妙な集団戦術を駆使してきたりと、こちらの嫌なところばかりついてくる。
ここ数日、スクーカムは対応に追われっぱなしだった。
(ああ……。チャトラン、ルナ、アルテミス……。猫を見に行きたい……。モフモフしたくてたまらんなあ)
寝台の上で寝そべりながら、あの温かく柔らかな猫の感触を思い出すスクーカム。
今すぐにでも猫達を触りに行きたかった。猫に会えない日々が続き、胸が異常なまでに苦しい。
これはひどい猫不足を体が訴えているに違いなかった。禁断症状と言っても過言ではないだろう。
もう山賊なんて父や衛兵長に丸投げして、離宮で猫に囲まれたい。なんならそのまま生涯を終えたい。
なんて衝動を覚える瞬間すらあった。少し前まで、強くなることしか考えていなかった自分が。
(もちろん、さすがにそこまで落ちぶれるつもりはないがな。……たぶん。ギリギリのところでそう思っている状態だ)
とにかく、一刻も早く山賊問題を解決し、離宮へ入り浸ろう。
(そしてそろそろ、自分も猫を好きになってしまったことをソマリに打ち明けよう。一体どんな反応をされるのだろう。想像もつかんが)
そんなことを考えながら、スクーカムは眠りについた。
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