噂の魔女(2)

 そんなことをソマリが考えていると。


「……む。あの辺りの壁も空いているな。あそこにも一枚、板を取り付けておこうか」


 タビーが、広間の端の方の壁を注視しながらソマリにそう提案した。


 確かに彼の言う通り、その付近の壁にはちょうどよく空間があって、板をもう一枚取り付けたら猫たちが登ってくれそうに思えた。


「それはいいわね! タビー、お願い」

「承知した」


 無表情で頷くも、すぐに金づちと釘、板を抱えて作業を開始するタビー。

 

 彼はあまり表情が豊かな方ではなく、だいたい淡々と短い言葉で応答する。しかし猫に対しては正直に「かわいい。かわいすぎる」と自身の思いを吐露するのだ。


 それに、猫のことをよく見ているようで、たまに今みたいにソマリが見落としていたことに気づき、行動に移してくれる。

チャトランのお腹にできた小さな毛玉に気づき、「切ってあげた方がいいのでは」とソマリに進言してきたこともあった。


 ただならぬ猫愛をタビーから感じる今日この頃、ソマリは彼が離宮を訪れるのを楽しみに思うようになってきていた。


(なんだかタビーとは同士って感じがするのよね。きっと彼は、私と同じくらい猫ちゃんに愛を抱いているはず)


 そういえばコラットが、「あのタビーとかいう人、悪い人ではないと思うんですけど。たただの旅人じゃないような気がするんですよねえ」と言っていた。


 平民にしては立ち振る舞いに気品があるし、顔が恐ろしく整っているんだと。「彼と平民街を歩くと、道行く女性が全員釘付けになるくらいには美形です」とも話していた。


 人間の男性の美醜にはあまり興味のないソマリだが、「ただの旅人じゃないとしたら、タビーって何なんだろう?」と彼の正体が少し気になってきていた。


 しかし考えたところで分からなかったし、結局「まあ猫好きなら正体なんて別になんでもいいか」という結論に行きついてしまう。


(スクーカム様も猫が好きならよかったのに。それなら私はもっと彼に興味を抱けるのだけれど)


 頭の中のほとんどを猫に関することで占められているソマリとて、一応結婚相手と仲良くしたいという思いは少なからず持っている。


 しかし現状では、婚約者のスクーカムよりもどこの馬の骨か分からないタビーの方が、気が合うし会話をしていて楽しい。もちろん不貞を働く気などは無いが。


(まあいいか。元々、スクーカム様を愛するつもりで結婚したんじゃないものね)


 壁に板を取り付けるタビーの姿を眺めながら、ソマリは密かにそんなことを考えていた。

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