縫合前夜

ねこと伽藍

縫合前夜

夕闇に金魚を溶かす筆を置く 誰があたしの名前呼んだの


静寂(sei-jaku):あたしがここにいないこと 辞書にもちゃんと書いておくから


友達でいた頃のこと雨粒の化石みたいに見つけたりする


素描だけ終えたら帰る準備して あたしに色をつけず帰って


ベランダに落ちた煙草の灰を踏む あなたのいない夜は綺麗だ


縫われてしまいました。空。現実。わたしはここで生きられないのに


この世にいちゃいけないと思う夜 星は血よりも静かに巡る


灯篭は流れて(大人になりたくない)やさしい夢のままで壊れた


心なんてひらかなくても生きていける舌に張りつく髪の毛をとる


しみしみと痛みしまぶた押さえれば狂える蝶の沈黙がある


輪投げ屋の少女がひとりまたひとり姿を消して祭りの夕べ


約束と呼びたくなかった泣くように笑ってゆびきり、ひかり、それきり


苔になる 木の葉が撒いた秋の陽をさざめく波と信じて生きる

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縫合前夜 ねこと伽藍 @anohinosuitou

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