ママ友総選挙

佐々井 サイジ

第1話 ボスママ総選挙

 いよいよ今日は、ボスママ総選挙の日。日菜子ママとの一騎打ち。投票が多かった方にボスママの肩書を得ることができる。以前は大差で負けたけど、今回はさすがに大丈夫だ。今日に備えて念入りの根回しと爆弾を仕込んだからだった。


 日菜子ママそしてその一派にはこの二年、随分といじめられ、こき使われた。日菜子ママ派ではない私のような非主流派は、花見や運動会の席取り、町内会の掃除、お昼過ぎのお茶会のスケジュール調整まで何から何まで押し付けられた。こんな横暴な政治を許すわけにはいかず、何度も不信任決議案を提出したが、数に勝る日菜子ママ派を崩しにかかることはできなかった。


 でも神は私の味方だった。スーパーで買い物をしているとき、日菜子ママを見かけた。日菜子ママはシーチキンの缶詰を手に取ってラベルを異常なほど確認していた。心なしか、わずかに首を動かしてあたりを警戒していたので、私は買い物客を隠れ蓑にしながら観察を続けた。


 客が違う陳列棚へと移動を始めたので、私も客についていきながら日菜子ママを視界に捉え、動画を回していると、日菜子ママは手に持っていた缶詰をカートのかごではなくエコバッグに落とした。万引きだ。日菜子ママが万引きをした。体内から興奮が溢れてきた。


 しかし日菜子ママはエコバッグに入れた缶詰を取り出してかごに入れ直した。万引きしようとしてやっぱり辞めたのかそれとも本当に落としてしまったのか、判断できない。でも私は、缶詰をかごに戻したところは編集で切り取った。


 私は非主流派のママたちを隣町の喫茶店に集めて、動画を見せた。


「うわっ」

「これはやりましたね」

「翔君ママ、私たちの時代が来ましたよ」


 私たちは歓喜に浸った。決定的な瞬間をスクショして現像し、ママたちと協力して深夜にご近所のポストに入れ回った。もちろん私たちの家にも。


 翌日、日菜子ママは真っ赤な顔で私の家のインターホンを鳴らした。


「あんたでしょ! こんな写真撮ったのは!」

「え、何ですかそれ。っていうか、日菜子ママ、万引きしたんですか」


 私はトボケつつ、自分のポストも確認した。


「うわっ本当だ。でも日菜子ママ自業自得ですよね。私、犯罪は許せないんで、通報しますね」

「私万引きなんかしてない! 手が滑ってエコバッグに落としたけど、その後ちゃんとかごに入れたわよ」

「でも、信じられませんね」

「本当だって! こんな捏造して許されると思ってんの?」

「私がやったっていう証拠でもあるんですか。それに捏造だって言うなら警察に言ってくださいよ」


 スマートフォンを取り出して緊急通報を押すと、日菜子ママは急にしおらしくなった。

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