第27話 パーティで眠りの森へ4


魔法石を壊して見た映像は、以前と同じ自分の部屋。

 それは中学生の頃とあまり変わらない部屋だった。

 部屋は薄暗く、俺はパソコンのディスプレイの明かりに照らされている。

 高校生になったときの記憶なのだが俺は浮かない顔をしている。


 高校1年生になった俺は、高校生活を満喫することはなくゲームに夢中だった。

 受験が終わり、またしてもゲームに打ち込んでいたのだ。

 オンラインゲームを死んだ顔で何時間もぶっ続けでプレイし続けている。


 ユウジやアリス、サキたちとアイディールワールドをやっているような気配はない。

 それでも一応連絡はしているようだ。

 携帯にはアリスから頻繁にメッセージや電話がかかってきていた。たまにユウジからも。


 アリスはたまにアイディールワールドにログインしているようだ。

 しかし、昔ほど一緒にゲームをすることはなかった。

 ある日、偶然ゲームの中でアリスと会っていた。


「アリスです、ハジメさんとちょっと話をしたいですが」

「久しぶりだな。なんか用か?」

「学校での事で、相談があって」

「あー俺ゲームで忙しいから、ちょっと無理かな」

「そうですか、ごめんなさい。私たちは同じクラスですから相談しやすいかなって思ったんですが」


「クラスの事情なんか興味ないよ。同じクラスの事ならユウジにでも相談すればいい。アリス、話はそれだけかよ?」

「はい、すいません。でもいつか学校じゃなくてもいいので、一緒に会って話しませんか?ユウジさんもいますし」


 夢の中の俺はそれを無視し、アリスのキャラクターから離れるとゲームの中のダンジョン攻略に戻った。


 アリスが話しかけているというのにぶっきらぼうな奴だな。

 俺は昔の自分の行動に腹が立っていた。

 今の自分だったらこんな冷たい言い方をアリスに言わないのに、なんで昔の俺はこんなに冷たいんだ?

 

 常にこの時の俺は不機嫌だった。理由はすぐわかった。

 俺は高校に行ってないんだ。いわゆる不登校気味なのだろう。

 自分を理解してくれる人がいないからむしゃくしゃしていたらしい。


 一方、両親は不登校になった俺とのどう付き合っていいか分からずにほとんど放置していた。

 その状態が続くと両親は「教育が悪かった」などと言い出し、急に優しくなっていった。

 それでも親は今度は良い大学に行かせようと教育熱心ぶりを発揮していた。


「ゲームばかりしていても意味がないじゃない」

「そんなことばかりして何になるんだ」

「お前は俺の言うことだけ聞いて黙って勉強してればいいんだ」

「そうよ、お父さんの言うことは聞いて頂戴」


 そんな言葉が毎晩、夕飯時のリビングで繰り返されるのであった。

 俺はその言葉に上の空で返事をして、返事をしない日には父親に殴られた。

 母親はそれを見てるだけで止めることはしなかった。


 この家から出たい。俺はそう思っていた。

 しかし、ただ思うだけで何もできないし、引きこもり生活が続いていた。

 早くこの環境やこの生活から抜け出したかった。


 やがて、目の前の夢はブラックアウトした。

 ダンジョンの自分へとすぐには意識が戻らず、考えだけが頭の中でぐるぐると回り続けていた。


 これが夢と言い切るには生々しすぎる。

 今回の夢と前回の夢も含めて、俺がもし元の世界で普通に暮らしていれば、親に言われそうな言葉や行動が見られた。


 俺はこれから、この現象をただの夢じゃなくて前の世界の記憶として考えたほうが色々と辻褄が合うのではないかと思った。

 これからは、魔法石で見る夢を前の世界での記憶だとして考えよう。


 今回の記憶のどこを見てもサキは現れなかった。

 ユウジが言うにはサキとは中学校の時に会ってるはずなのだ。

 しかしその記憶は俺は見ていない。


 そして高校の記憶にもサキはいない。

 もしかしてサキは違う高校に行ったのか?

 それとも最初からサキの言うように俺たちと同じ世界の住人ではないのだろうか?


 そして、全てのシーンが巻き戻り、ぐちゃぐちゃになると目の前に悲しそうな顔をして黒髪の少女が立っていた。


(ずっと×××よ?)

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