第26話 パーティで眠りの森へ3
俺たちは10階層へと続くその仰々しい扉を開けた。
そこには大型のミノタウロスが出現し、ゴブリン、センチピードなど低級の魔物もそれを取り巻くように並んでいた。
そして、中央には5階層と同じく石柱に埋め込まれた魔法石があった。
頭の中から、またあの声が聞こえてくる。
(ず×××××よ?)
最初に聞いたときよりはノイズが薄くなり、もう少しで声のようなものが聞こえるようになっていた。
「あれがハジメさんがおっしゃってた魔法石ですか。宝石みたいで綺麗ですねぇ」
アリスは奥にある魔法石の輝きに目を細めながら呑気な感想を漏らした。
「5階層とこの階にもあるということは、この下の階層にもあるかもしれねぇな」
ユウジが魔法石を見ながら、俺の考えと似たようなことを言う。
「うわぁ、またあの虫いるわよ」
サキがミノタウロスの周りに浮遊しているセンチピードを見てため息をつくと、アリスも手を合わせて同意する。
「あの虫、サキさんも嫌ですよねぇ!?」
二人は手を合わせて体を震わせている。
センチピードは確かに面倒な相手だ。出来るなら早めに処理したい。
「おい、ハジメどうすればいい?さっきと同じような目に合うのは俺は嫌だぞ」
ユウジが真面目な顔で俺に問いかけるが、先ほどの件でまだ顔は黒ずんでおり、ちょっと笑ってしまう。
「最初からアリスに炎系統の魔法を撃ってもらって、センチピードを撃ち落としてからじゃないと話にならないな」
フライングセンチピードは動きが素早く、集団で襲ってくる傾向にあるので早目に倒しておきたい。ボスを倒す前に、周りの素早い低級魔物を倒したいとなると、この場合は大型魔法を使った方が早い。
「私の魔力もまだありあまってるし、私の魔法じゃダメなの?」
「サキは防御系の魔法が使えるからアリスを守って欲しい」
「分かった。アンタはどうするの?」
「俺はゴブリンを倒しながらミノタウロスの注意を引き付けておく」
「まあ、無茶はしないでね」
「じゃあ、ぼちぼちやりますか」
ユウジのぼやきを合図に俺たちはそれぞれのポジションに散らばった。
「汝が炎の聖霊たる由縁を見せ給え、フレイムオブフレイヤ」
アリスの詠唱が終わるとダンジョン内に炎がまき散らされセンチピードにまとわりついていく。俺は急いでダンジョンの端の方に逃げた。
やはり炎魔法は虫系の魔物には効果抜群なのだが、そのデメリットとして人間側も火を食らってしまう可能性が多いのが玉に瑕だ。
しかし、アリスが今回選んだ魔法はホーミングするように魔物だけに当たっていた。
「ビィィィィ」
アリスが出した魔法はセンチピードにうまく当たり、燃え尽きて全滅したみたいだ。
俺はゴブリンの攻撃をうまくいなしながら、ミノタウロスの注意を引き付けた。ミノタウロスはアリスと俺のどちらを相手すればいいか迷っているみたいだ。
それなら、こちらの方から近づこう。
クリーピングシャドウ。
俺はスキルをつぶやくとミノタウロスとの距離を一気に詰めた。
このスキルは盗賊の戦闘スタイルと相性がいいが、時間制限がある。
本来は相手との勝負を短期決着に持ち込むためのスキルだった。
俺はミノタウロスの斧をよけながら足、腕、などをダガーで刺していき、順調にダメージを稼いだ。
「ブモォォォ」
ミノタウロスは近づいてきた俺に標的を絞ったようだ。
怒り狂っているのか鼻から湯気のようなものが出て、筋肉粒々の体で大きな斧を振り回している。
あれが俺の体に当たったら一撃で瀕死だろう。
「できればリスクを取りたくないんだけどな」
ミノタウロスの弱点は特にないが、心臓部や頭を狙うとダメージが入りやすいと言われていた。しかし、その部位には簡単には近づけない。
先ほどのスキルを使った理由はその斧の攻撃をかいくぐり、小さなダメージを重ねていくことにあった。
一旦、ミノタウロスと距離を置き、アリスたちに視線を合わせた。アリスたちはセンチピードを魔法で撃ち落とした後、3人で周りのゴブリンの相手をしているらしい。ゴブリンの処理が終わり次第、こちらの応援をしてくれるだろう。
そのとき、横から急に残っていたゴブリンが剣を突き出してきた。俺は間一髪で避けたが、そのままミノタウロスの前に派手に転んでしまった。
「あっ」
ミノタウロスは既に大きな斧の攻撃モーションに入っている。これはまずい。
なんとかダメージを軽減のためにダガーを体の前に出し、斧を少しでも受け止めようとする。その斧が当たると思ったその瞬間、ミノタウロスの動きは止まった。
「女神の加護を勇敢なる者へと与えよ、ギルティッドケージ」
澄んだ声が聞こえたと思ったら、ミノタウロスの斧が俺の顔ギリギリのところで見えない膜のようなもので防がれた。
どうやらサキが防御魔法を使ったみたいだ。
ミノタウロスは薄い膜のような領域に斧が引っかかって取れないでいる。
それを見てアリスとユウジも駆け寄ってくる。他の魔物はどうやらアリスたちが一掃してくれたみたいだ。
「助かった!今のうちに、一斉に攻撃にしよう」
「おう!今行くぞ」
俺とユウジが上半身まであがりミノタウロスの心臓部と頭を貫き、サキとアリスが遠距離から魔法を撃ち、最後に俺が一撃をミノタウロスの眼に見舞った。
ミノタウロスは「ヴヴゥ」と短く鳴く。やがてドスンと重量感のある音がダンジョンのフロアに響くとミノタウロスは息絶えた。
「ハジメさん大丈夫ですか?一人でミノタウロスの相手をするなんて、無茶しすぎですよ」
アリスはミノタウロスを倒せた嬉しさよりも俺の心配をしていた。
「本当にそうだな、すまん」
「もー、私がいないとあんた、死んでたかもしれないよ?」
サキはゆっくりと近づいてくるとニヤニヤと茶化してくる。サキはまだ余裕がありそうだった。
本当に魔力が無尽蔵なのではないかと思わせる余裕っぷりだ。
「あれは本当に助かった。もうちょっと遅かったら危なかったな」
「これで借りができたわね。お返しは美味しいレストランに百万回一緒に行くことで返して頂戴」
「お前、そんなに食べると太るぞ」
俺は無言でサキから睨まれると、そこから逃れるようにミノタウロスの体へと近づいた。
その巨体は地面に預けたままぴくりとも動かない。
あれだけ攻撃を加えれば絶命しているだろう。
俺は魔法石の方へ視線をやる。魔法石は相変わらずこのフロアの奥で青白く輝いていた。
「ハジメ、あの魔法石壊すんでしょ」
「ああ、ちょっと壊してくる」
俺は部屋の奥にある魔法石へと近づいた。
この魔法石を壊すのはちょっと緊張する。
近くに来るとまたあの声が聞こえる。
(ずっ××××よ?)
はいはい、分かったよ。今壊してやるからな。
ずっと聞いてるとなんだか可哀想に思えてきて壊しにくいので、さっさと済まそう。
俺は大きく息を吸うとゆっくりと吐いた。
ダガーを握り魔法石へと振り下ろす。
魔法石はダガーの衝撃で砕かれ、ダンジョンは光で満ちていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます