第10話 眠りの森ダンジョンの発見2

 その大きな扉を開くと、5階層は大広間のような開放的なフロアだった。


 地下にこんな大きいフロアが広がっているとは驚きだった。

 目を凝らすと階層の奥に何やら眩く光る物体が見える。


「ん?なんだあれ?」


 高価な宝石やレアアイテムであることを祈りつつ、陰に隠れて遠目で確認する。

 一見すると眩く光るそれは大きな宝石のように見えた。


「なるほど、あれは魔法石か」


 魔物に気づかれないように小声で一人納得する。

 石柱の中に埋まっているそれは、魔力が封じ込まれている魔法石だった。


(ず××××××?)


 そのときまた、頭の中で金属音混じりのノイズが響く。

 先ほどよりノイズは少なくなっているが、それでも不快なことには変わりはない。

 あの魔法石の影響で、頭の中のノイズが聞こえるのだろうか。


 俺は魔法石に近づくため、付近のゴブリンを処理した。

 不意打ちでゴブリン一匹の胸を一突き、盗賊の得意技である忍び足スキルで後ろを取るともう一匹の背中を刺す。

 いつもの動作の繰り返しで難なく処理した。

 ノイズは確かに耳障りだが、それでもゴブリンの相手は問題なかった。


(ず××××××?)


 よく耳を澄ませて聞くとそれは音ではなく誰かが呼び掛けている声にも聞こえる。


「俺に呼びかけてたのはお前だったのか」


 ここに来るまでに頭の中に響いたノイズの原因は、この魔法石だったのだろうか。

 そうだとしたら、これを壊せばノイズは消えるはず。


 その声に導かれるまま魔法石に近づくと俺はダガーでその魔法石に一撃を入れた。 

 魔法石は粉々に砕けてバラバラと地面に散り、中からは目も開けられないような眩しい光が溢れ、俺は包み込まれた。


 その光を見ているといつの間にか意識を失った。



 気が付くとそこは誰かの部屋だった。


 周りを見渡すとなぜか懐かしい気持ちになっていく。

 この風景を俺はどこかで見たような気がする。


 その部屋に一人の少年がいる。

 少年はPCの前でダンジョン攻略をするオンラインゲームをやっていた。

 その姿をずっと見ていると、俺はその少年をどこかで見たことがある気がした。


 少年はゲームの中で盗賊職を選んでいた。

 その職業はダガーを使いこなし、敵の急所を上手く狙って敵を倒していく職業のようだ。


 少年は一人でダンジョンに潜るのが好きなようで、そのために盗賊職を選んでいるらしい。

 魔物に気づかれずダンジョンを攻略したり、ドロップアイテムを拾っていく。

 そういうプレイスタイルだった。


 いつの日か、一人ではなく誰かと通話をしながらゲームをしていた。


「ハジメさん、どうやって覚えた水魔法を使うんですか?」

「キャラをクリックすると詠唱が始まるから押してみろ」

「これですかね?リヴィアタンカスケード!」

「そうそう、っておい!アリスの水魔法、俺に当たってるよ!」

「す、すいません。回復魔法をかけますね、ヘルフレイムディザスター!」

「そうそう、それが回復魔法。って、めちゃくちゃ炎出てる!」


 アリス、ハジメ。

 聞き覚えのある単語に、俺は気づく。


 その会話内容から察するに、この少年は俺だったのだ。

 そして、俺と一緒に通話しながらゲームをしているのは声と名前から察するにあのアリスのようだった。


 別の場面に切り替わる。

 またしても俺はオンラインゲームをアリスとやっている。

 しかし、アリスの声色が優れない。


「アリス、なんか落ち込んでないか?」

「ちょっと学校で嫌なことがあって憂鬱なんです。友達とうまくいかなくて。それに加えて両親とも喧嘩しちゃって」

「嫌なことがあっても俺らとゲームすればいいだろ。気にすんな。それより、この前一緒に進めたダンジョンに潜ろうぜ」

「は、はい!あ、そういえば新しい魔法が使えるようになりました!」

「本当か?見せてくれよ」


 別の場面。

 どうやら俺は現実の世界で行きたい高校があったらしい。

 それを両親に言うと最初はどちらも喜んでいた。


 やがて親は頼みもしないのに塾を紹介したり、家庭教師を付けようかどうかで迷っていた。

 そんなものはいらないと言うと「あなたのためにやってるのに」と拗ね始めた。

 やがて関係が悪化したようだ。


 最初に高校に行きたいと言ったのは俺だったが、そこに乗じて勝手に熱心になったのは親だった。

 父親はそこそこ有名な大学に入っていたらしく、教育への熱心さが空回りしてたのかもしれない。



 その場面を最後に今まで見えていた映像はブラックアウトした。

 底の見えない真っ暗闇に落ちて意識がまどろむ。

 

 自分が見た先ほどの映像は妙に現実味があった。

 なぜ魔法石を壊したら急にこんな生々しい夢を見たのだろう。

 

 すると、今までのシーンが巻き戻り、ぐちゃぐちゃにかき混ざると一人の長い黒髪の少女が目の前に立っていた。


(ず××××××?)


 その悲しそうな顔と聞き取れない言葉が脳裏に焼き付いて離れなかった。


 「はあっ・・・はあっ・・・」


 気づくと俺は壊れた魔法石の前で立ちすくんでいた。

 心臓が高鳴り、肩で息をしている。


 今のはどういうことだよ?俺は今、何を見てたんだ?

 深呼吸して呼吸を整える。

 ここにきて明らかに疲労感が溜まっていた。


 それに異常に眠い。

 とりあえず早くスターティアに帰らないと、このダンジョンで死んでしまう。

 こんなところで魔物に襲われたら元も子もない。


 俺は自分の限界まで盗賊のスキルを駆使しつつ、ダンジョンを急いで脱出した。  

 変な夢を見てしまった不快感と体を無理に動かしている疲労感で動悸が激しい。


「ここまでくれば大丈夫・・・なはず」


 ダンジョンを脱出した瞬間、張り詰めた緊張が解けた。

 そして、俺は眠りの森からスターティアまでの帰る道の途中で、ぷつんと意識が途切れてしまった。

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