第6話 酒場での4人の会話1
俺たちのパーティは暇な時間ができると、みんなで酒場に来るのが日常茶飯事になっていた。
この日も例に漏れず誰かが酒場に行きたいと言い出して、いつもどおり酒場に行くことになった。
酒場オールドアロウは俺たちがよく利用する大箱の店で、いつも威勢のいい店員と客のそれに負けないぐらいの馬鹿話が飛び交っている。
オールドアロウの扉を開けると客の喧騒と熱気が雪崩のように押し寄せてきた。
その熱気は外との温度が体感で上がっているのではないかと疑ってしまうくらいだ。
「ここも最初に来た時から全く変わらないわね。」
サキが酒場を見渡し、少し呆れるようにして空いてるテーブルの椅子に腰かけた。
「変わらないのが良いんだろうよ。さ、酒頼みますか」
早速、店員に酒を注文しながらをユウジが応じた。
俺とアリスもそれに倣い、椅子へと腰掛ける。
視線を横に向けると何やらアリスは酒屋の熱気にやられてしまったようだ。
何回もここには来ているが、アリスは慣れないらしい。
アリスは華奢な体を小刻みに震えさせている。
それを見ていると内気な性格も相まって可哀想に思えてきた。
「ごめんなアリス、いつもこんな場所に連れ出して」
俺は少し罪悪感を感じて謝っておく。
「いえ、最近は慣れましたよ。これもパーティの親睦を深めるためなので」
「なんでアリスちゃんだけに謝るの、私にも謝って。はい、ごめんなさいして」
「なんでだよ、そもそもお前は結構酒飲むだろ。この前なんてゲロったくせに」
「はーい、その話、次したらぶん殴ります。それにアリスちゃんだってそれなりに飲むよねぇ?」
「えーと、飲めるというか飲めないというか、あのー」
アリスはサキの威圧感たっぷりの口調に怖気づいている。
俺とサキの何も得られない不毛な争いにユウジが割って入った。
「わかった、わかった。とりあえず飲もうな」
そんなやり取りをしながら今日も酒場でのとりとめもない会話がじまるのだった。
今日は久しぶりにパーティー全員が集まったのでそれぞれの直近の活動が会話内容の主になった。
「最近アリスちゃんは何してるの?」
「学校の研究室で専ら魔法研究ですねー」
魔法の話になり、笑顔で応じるアリス。
藍色の髪がわずかに揺れる。
アリスは魔女討伐の旅の後も魔法研究に熱心で、この街スターティアの魔法学校に教員として招聘されていた。
その上、学校側から研究室をあてがわれ、そこで魔法研究をしているらしい。
「アリスちゃんは本当に魔法好きよねー」
「いやーサキさんほど上手くできないですよ。攻撃魔法以外からっきしなので」
「私は好きっていうか、器用貧乏なだけよ。アリスちゃんみたいに情熱が無いもん」
「私って情熱あるんですかね?ただ好きで魔法を使ってるだけなので」
「めちゃくちゃあるよー、私は魔法を道具としてしか見てないし」
「ついに俺たちは魔法を覚えないでここまで来ちまったけどな」
ユウジは俺に笑いかける。
この世界では魔法と剣技のスキルはちょっと違うし、戦闘スキルがあれば魔法は覚えなくても何とかやっていける。
魔法もいつか使いこなしてみたいと思うし、魔法にもロマンを感じるのだが、手が出せていない。
「そういうユウジはどうなのよ?最近なんか面白いことあった?」
「たまにやってる剣技の大会に参加したり、暇なときは湖の方に行って釣りとかだな」
「湖ってスターティアから遠くない?」
「まあ遠いけど好きな趣味だったらそんなこと思わないぜ」
「へえ、釣りって一回もしたことないかも」
「釣りは良いぞ、考え事したいときにおすすめだな。話し相手がいれば尚良い」
ユウジが腕を組みながらうんうんと頷いている。
「ところでハジメさんは最近何をしてらっしゃるんですか?」
アリスが興味津々に横から覗き込んでくる。
悪いが、その期待には俺はうまく答えられない。
自慢じゃないが最近、自堕落な日々を送っているからな。
「うーん、暇つぶしにクエスト受けたりユウジと釣りしてたりかな」
「つまらない人生ね。そこら辺のダンゴムシの方が有意義に暮らしてるわよ」
サキが俺にだけ辛辣な一言を付け加えてくる。
「ダ、ダンゴムシは3年しか生きられないのでハジメさんの方が凄いです」
謎のダンゴムシ知識を披露するアリスに俺は困惑しつつ、サキにそう思われるのも仕方ないなと思っていた。
俺たちは災厄の魔女討伐の旅が終え、パーティーメンバー全員でこの始まりの街スターティアに帰ってきた。
この街に帰ってきてしばらくして、みんなはそれぞれやりたいことを見つけて日々を過ごし始めたのだが、そのときから自分だけは目的を持たずに怠惰に過ごしていた。
「教会でアイドルの真似事やってる奴に言われたくないけどな」
むかついた俺はサキに言葉を返す。
「あれは教会のれっきとした広報活動であってね」
「でも、いつもノリノリでやってるよな」
「私がみんなの前で笑顔を振りまいて教会の宣伝してることが何か問題でもあるわけ?もしかして日々充実している私に嫉妬ですか?」
サキが舌を出しておちょくってくる。
「いやいや、お前のその自信が恐ろしいよ」
「正直言うとああいうのってお金になるのよ、この世はお金なんです」
「アイドルがこの世は金とか言っちゃだめだろ」
こんな奴にお布施をしている信者が哀れになってきた。
「まあまあ喧嘩しないでください、皆さん落ち着いて、ね?」
酒が進んで何やら上機嫌のアリスが宥める。
アリスは控えめな見た目の印象とは打って変わって、実際は飲める方だ。
というか逆に飲みすぎることの方が多い。
「でもこの前、街でハジメのこと見かけたけど、サキと仲良く手つないで歩いてたぞ。お前ら付き合ってんのか?」
ブハァァァァ。
ユウジの余計な報告に俺を含め三人が酒を吹き出した。
いち早く反応したのはアリスだ。
「はあああああああ?なんですかそれ?その話詳しくお願いします、ユウジさん」
「おう、あれはある日の朝だった」
やめればいいのに詳しく聞こうとするアリス。
こうなったらこいつらの話は長くなる。
どうにか話を逸らして場を静める必要があった。
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