第60話:推【お】しの推し
たった2週間でオタ活までが
(なんだか現実とは思えない……)
メトロに乗り、神楽坂駅から出ると、明日花は大きく息を吐いた。
「はー、大満足!」
「盛りだくさんで楽しかったですね」
(帰る方向が一緒っていいな。寂しくない……)
マンションに向かう道すがら、蓮がさりげなく尋ねてきた。
「
「はい!
「……そういう対象が『
「蓮さんは
蓮が立ち止まり、無言でじっと見つめてきた。
「……います」
「えっ、誰ですか!?」
意外な答えに明日花が勢い込むと、蓮がぐっと詰まって目をそらせた。
(アイドルとかかな? 言いにくいのかも……)
「無理に言わなくても大丈夫です!」
「す、すいません……。
「そんなことないですよー。私だってずっと言えなかったし」
蓮が「そういうことでは……」ともごもごと口にしたが、明日花の耳には届かなかった。
「
蓮がおずおずと尋ねてくる。
(これは――推し活の先輩としてアドバイスせねば!)
「心の中で応援するだけで充分だと思いますけど……そうですね、可能な範囲で
「貢ぐ……?」
「私の場合、本を買ったり、グッズを買ったり、イベントに行ったり――そうすると、コンテンツが長続きしてくれるので」
「ああ、はい。なるほど……コンテンツ……」
蓮がコホンと咳払いをした。
「明日花さん、パフェが好きって言ってましたよね。今度食べにいきます?」
「あ、今度は私に
さんざん連れ回した挙げ句、戦利品までたくさんゲットできたのだ。
お礼をしたかった明日花は、蓮の提案に飛びついた。
「や……その、僕が奢るので……」
蓮がもごもごと口ごもる。
「……
「え? 聞こえなかったです!!」
蓮がなぜか目をそらしてほんのり顔を赤らめてる。
「とにかく奢ります!」
まるで決意表明かのような勢いに、明日花は首を
(……なんでそんなに奢りたいんだろう?)
不思議そうに見つめると、蓮がなぜか両手で顔を覆った。両耳が赤く染まっている。
(なんだか照れてるみたい……)
(んん? なんだか既視感があるな、このシチュエーション……)
(男性が女性に好意を伝えようとしているような……)
明日花は慌てて妄想を消し去った。
(いやいや、蓮さんは女性が怖いんだから!)
(それに、私みたいな珍獣は恋愛対象じゃないよ……)
「あの、明日花さん……!」
蓮が思い切ったように口を開いた。
真剣そのものの眼差しに、明日花も身構える。
「はいっ……なんでしょう?」
「手を……繋いでいいですか?」
そろそろと手が差し伸べられる。
「はい! 疲れましたよね? 大丈夫ですか?」
明日花はぎゅっと手を握った。
「荷物まで持たせてすいません!」
なぜか蓮が
(空に何かあるのかな?)
見上げると、雲一つない青空が広がっている。
「今日はいい天気でよかったですね! ね! 蓮さん?」
男心がまったくわからない明日花と、ようやく
ふたりの恋は始まったばかりだ。
推【お】しに激似のおとなりさん 佐倉ロゼ @rosesakura
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