第58話:一緒にオタ活

 それから4日後の土曜日――。

 明日花は蓮と一緒に渋谷に来ていた。


「いい天気でよかったですね。じゃあ、スタートのツタヤに行きますか」

「はい!」


 『オカルト学園はぐれ組』の渋谷ジャックイベント、スタンプラリーの初日だ。

 台紙を手に入れ、合計8カ所のスタンプ欄にキャラのオリジナルスタンプを押印すると、記念品がもらえるというものだ。


「でも、本当にいいんですか? スタンプラリー大変ですよ?」


 人混みを縫って渋谷のど真ん中を歩き回ることになる。


「いえ、わくわくします。スタンプラリーなんて子どもの時以来で」


 微笑む蓮が本当に楽しそうで、明日花はホッとした。

 明日花の胸元にはペンダントが光っている。

 更紗の手によって落とされたペンダントは、無事に戻った。チェーンを丈夫なものに付け直している。


 ストーカー事件のあと、蓮から改めてお礼をお詫びの申し出があり、何かご馳走したいというので思い切ってコラボカフェに誘ってみた。

 快諾してくれた蓮だったが、待ち合わせが午後からの理由を尋ねられた。

 午前中はスタンプラリーに行くと話すと、一緒にいきたいと言われたのだ。


「イベントとか縁がなくて、興味があるので連れていってください!」


 そう言われてドキドキしながら連れてきたものの、蓋を開けてみれば方向音痴の明日花が、蓮に道案内されて各ポイントに連れていってもらう羽目になった。


「えっと、次はモディ渋谷です。モディは……えっと、こっち……かな……」


 台紙についている地図をぐるぐるひっくり返しながら、なんとか方向を把握はあくしようと明日花がぐだぐだしているうちに、蓮がさっと歩き出す。


「こっちですね」

「あっ、ハイ……。蓮さんは渋谷に詳しいですね」

「いえ、渋谷はあまり来たことないです」

「じゃあ、なんで道がわかるんですか?」

「? 地図がありますから……」


 蓮のおかげでさくさくとスタンプラリーが進む。


(私一人だったら、絶対三倍は時間がかかる……)


「明日花さんの言うとおり、歩きやすい靴にしてよかったです」

「でしょ? 何度も痛い目を見ましたからね……」


 イベントだからと浮かれてヒールのある靴を履き、見事に靴擦れをした。

 明日花のアドバイスは長時間歩きやすい服装と、両手が空くようなバッグを持つこと。

 蓮は生真面目きまじめにシャツにジーンズとシンプルな格好で、ボディバッグを斜めがけしている。


「ちゃんと前準備しているんですね!」


 もらった特典をさっと袋に入れて大事そうにファイルにしまう明日花を感心したように蓮が見つめてくる。


「せっかくの特典が折れたり汚れたりしたら悲しいですから。それより、本当に特典私がもらっていいんですか?」


 二人で回ったので、特典は二枚もらえることとなった。


「もちろん!」

「ありがとうございます! 観賞用と保存用が手に入って嬉しい……」


 二人でイベントに参加することのメリットは計り知れない。


(スタンプラリー、二人だと楽しいな……)


 一人でやった時は、誰に頼ることもできず、一人で必死にポイントを回らなくてはいけなかった。


 おかげで時間に余裕があり、二人はウィンドウショッピングを楽しんだ。


「へええ……イケアにロフトもあるんだ。やっぱり渋谷は便利ですね」

「ダイソーの大型店もありますよ!」


 オタク必須のケースや袋、写真立てから突っ張り棒など、グッズを保管するためにだいぶお世話になった。


「いいですね。今日は荷物になるから、今度買いに来ようかな。イケアのワゴンとか良さそうだったんですよね」

「あれ便利そうでしたね! 三段あるし、軽くて動かしやすそうでした」

「明日花さんが連れてきてくれたおかげです。よかったら、今度買い物付き合ってもらえませんか?」

「いいですよ!」


 明日花はさらっとOKした。

 変な隠し事もなく、蓮とも親しくなった今、何におもねることなくそう言える。


(嬉しいなあ……)


 まるで体が軽くなったようだ。


「そろそろ予約時間じゃないですか?」

「あ、ほんとだ」


 コラボカフェの予約時間が迫ってきている。


「楽しみだなあ。コラボカフェ、初めてなんですよ」


 蓮がわくわくしているのが伝わり、明日花は嬉しくなった。


「カフェメニューもそうですけど、店内すべてがコラボになっているので、面白いと思いますよ。今なら、蓮さんもキャラ全員知ってますし」

「グッズも売っているんですよね?」

「はい。併設されていて、カフェ利用者のみ購入可能なんです!」


 二人はコラボカフェを開催している、パルコに向かった。


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