第50話:蓮の告白
「私も今日は会ってないです……」
「そっか……って、明日花ちゃん、どうしたの! 顔めっちゃ腫れてる!」
「気にしないでください。ちょっと号泣しただけで」
「気になるけど! いや、今はそれどころじゃないな。明日花ちゃんも会ってないなら、マンションにいるのかな。心配だしちょっと行ってくるわ。合鍵預かってるし」
淳が白衣のポケットからスマホを取り出した。
「もし行き違いになって蓮が来たら、芙美さん俺のスマホに連絡くれる?」
「了解です」
芙美がさっとスマホを出して淳と連絡先を交換する。
「でもクリニックはどうするの? 予約の患者さんいるんじゃない?」
「そうだけど、部屋で倒れていたら大変だし……」
明日花はハッとした。
(そうだ、一人暮らしのリスク……倒れても誰も気づいてくれないこと……)
「あの! 私が行って様子を見てきてもいいですか?」
「え?」
「私、一度部屋に入れてもらったことがあるので間取りがわかりますし、同じマンションだから何かあった時に管理会社や管理人さんと相談しやすいですし……」
「えっ、ありがたいけど……いいの?」
「いいよ。今日は予約のみ対応、ってことにするから、受付がいなくても大丈夫」
芙美が迷うことなく言う。
「助かる! じゃあ頼むよ、明日花ちゃん」
明日花は渡された合鍵をぎゅっと握りしめた。
「でも、あの、部屋に入ったって……明日花ちゃんはその、蓮と……」
淳が言いづらそうに目をそらせたので、明日花は慌てた。
「いえ、そんなんじゃなくて。私が鍵をなくした時に入れてもらっただけです! とにかく、行ってきますね!」
もし蓮が倒れているとしたら一刻を争う。
明日花はビルから出ると、タクシーを止めて乗り込んだ。
タクシーの中から電話をかけてみるが、やはり繋がらない。
メッセージも既読にならない。
(どうしたんだろう、蓮さん)
(昨日……あんな別れ方したし、気になる……)
自分から部屋に誘っておいて、出て行けと怒鳴るなんて。
しかも優しい言葉をかけてくれたのに。
後悔が胸にわき上がる。
(最低な女って言われてもしょうがない……)
マンションに着くと、明日花は足早に702号室のインターホンを鳴らした。
だが、応答がない。
明日花はドキドキしながら合鍵でドアを開けた。
「お、お邪魔します……」
室内はしん、と静まり返って人の気配がない。
「若木明日花です。蓮さん、いらっしゃいますか?」
声を掛けつつ、明日花は廊下を進んだ。
リビングに入ると、ソファの前の床に倒れている蓮が見えた。
「蓮さん!!」
悲鳴のような叫び声を上げると、倒れている蓮の肩がぴくりと動いた。
(よかった、生きてる!)
蓮が
「ん……、明日花さん?」
「あっ、あの、合鍵を、淳さんから! 蓮さん、大丈夫ですか!?」
焦りと安堵にうまく話せなかったが、蓮はすぐに状況を飲み込んだようだ。
「今って……ああ、もう9時半すぎなのか」
はあっと深いため息をつき、髪をかきあげる。
「大丈夫です。寝てただけなんで」
「寝てただけって……」
寝室もソファもあるのに床で寝ていたというのか。
床に座り込んだまま、蓮が見上げてくる。
「すいません、わざわざ来てもらって……。僕は大丈夫なんで」
蓮は視線を向けているものの、その目は自分を映していない。
今までにない素っ気ない声だった。
明日花はがばっと頭を下げた。
「昨日はすいませんでした! 嘘がバレてバツが悪くて当たり散らしました! ごめんなさい!」
呆れられて無視されるのも覚悟していたが、蓮がくすっと笑う声がした。
「僕も同じです。嘘をついてました。だから顔を上げてください」
明日花がそろそろと頭を上げると、蓮が薄く笑んでいた。
「更紗さんのことは誰に聞いたんですか?」
「本人です。昨日、仕事帰りにオフィスビルの前に更紗さんがいて。話があるって言われて……」
「彼女はなんて言ってました」
蓮が淡々と質問をしてくる。
「蓮さんと婚約していて、いずれ一緒に住むから広い部屋を借りてくれたって。あと、隣人としてわきまえてほしいって」
蓮が両手で顔を覆った。
「彼女は婚約者じゃない」
ふう、とため息をついた蓮が見上げてくる。
「ストーカーです」
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