第11話:思わぬ訪問者

(ちょうど出かける前で着替えていてよかったー)


 部屋着でくつろいでいるときに配達が来ると大慌てしてしまう。


(えーーっと、アミプレックスだっけ? それともサンレオコラボ? 公式ショップ? 応募者全員サービスのやつ……?)


 通販は家にいながら買え、交通費と時間を節約できるというメリットがある。

 だが――。


(発送に時間がかかりすぎるんだよね!)

(半年後とかザラ!)


 そのため、欲しいグッズが出るたびに通販で購入すると、どのグッズがいつ届くのかわからなくなってしまう。


 いずれにしても、自分が購入したグッズには違いない。

(開けたらわかるし)


 部屋のインターホンが鳴った。


「はーい」

 明日花あすかは印鑑を手にし、勢いよくドアを開けた。


 つばのついたキャップにマスク姿の男性が、段ボールを手に立っていた。


 よくある配達員の格好だが――なぜかサングラスをしていた。


「金を出せ」

 乱暴な口の利き方に明日花は驚いた。

 たまに横柄おうへいな態度の配達員もいるが、これはひどすぎるだろう。


「は? クレカで先払いしましたけど!?」

 憤慨したた明日花は、思わずキツい口調になってしまった。


 代引きは手数料がかかるので、明日花は会社員時代に作ったクレジットカードで支払うことにしている。

 もちろん、一括払いだ。


 明日花が自信満々に睨みつけると、配達員は沈黙した。

「……」


 配達員が段ボールを手渡してくる。

(軽っ……)


 受け取った明日花はその軽さに戸惑いながら、配送伝票が貼られていないことに気づいた。


(え……?)

 空になった配達員の手にはナイフが握られていた。


「静かにしろ。騒げば殺す」

 囁くような小さな声だが、物騒な内容ははっきりと聞き取れた。


「……!!」

 明日花は一瞬で状況を理解した。


(ああああああ、これがニュースでよく見る配達員を装った強盗かーーーー!!)

(金を出せ、ってそういうコト!?)

(いや、ちいかわになってる場合じゃなくて!!)

(手口は知っていたのに、通販しすぎて警戒するの忘れてた!!)


「金、あるんだろ!?」

 凄んできた強盗に、明日花は段ボールの空箱を手に固まってしまった。


(どどどどどうしよう!!)

 そのとき、ガチャリというドアの開閉音が聞こえた。


 隣の702号室かられんが出てくる。

(あっ……)

 やっぱり蓮とはエンカウント率が高い。


 蓮の手には折り畳んだ引っ越し用の段ボールがある。

(そうだ、今日は資源ゴミを出すって……)


 強盗がハッとし、蓮から見えないようにナイフを下ろした。


「……騒ぐと殺す」

 明日花に囁くように言う。


 どの道、パニックになっている明日花は動くことはおろか一言も発することができない。


(ど、どうしよう……どうしたら)

 ただでさえ突発的なアクシデントに弱い明日花は、頭が真っ白になってしまった。


「あれ、明日花さん? おはようございます」

 こちらに気づいた蓮がにこりと笑う。


 蓮の姿に刃也じんやの顔が蘇る。


――助けてほしいのなら、声を上げろ!!


(刃也くん!!)

 チーム対抗戦編での刃也が浮かぶ。


 自分の強さにおごった一年生たちがピンチに陥ったときに、プライドの高い柊一郎しゅういちろうに放った言葉だ。


 こちらを見つめる蓮と刃也の姿がかさなる。


「助けてください!!」

 呪縛から解き放たれた明日花は、絞り出すように声を上げた。


「……っ」

 瞬時に事情を察した蓮の行動は素早かった。


 猛然と自分に向かってくる長身の蓮に、強盗は明らかにひるんだ。


 エレベーターの方へと逃げかける強盗の腕を、蓮ががしっとつかむ。


(リ、リーチが長い!!)


 蓮が思い切り腕を背中の方へひねりあげると、強盗は悲鳴を上げた。

「うああああああ!!」


 カツンと小さな音を立て、ナイフが床に落ちる。


「警察を呼んでください!!」

「はいっ!」

 蓮の言葉に明日花は大きく頷いた。


(すごい……!!)


 素早く強盗を捕まえた蓮の姿は、後輩に助けを求められた瞬間、一撃で敵を倒した刃也の姿にそっくりだった。

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