告白されたのがエイプリルフールだったから冗談だと思ってOKしたら本気だった話
甘照
第1話 一旦乗ってあげよう
「
「ん?うん。もちろんいいよ~」
幼馴染みである
一瞬何のことかと驚いたけど、そういえば今日はエイプリルフールだったと思い出して、冗談に乗ってあげることにした。
え?本気かもしれないって?
いやいや、相手は昔からずっと一緒にいる咲那だよ?
昨日とかも普通に寝る直前まで通話してたり、一昨日も普通にカラオケ行ったりしてたし、来週から高校生になる今日まで一切そういう素振りを見せて来なかった咲那がまさか、いきなりありえないってば。
それに咲那は私と同じ女の子だし。
私は女の子好きだけど、咲那は普段から道すがらの男の子を見ては「ね!今の子めっちゃかっこよくない!?」みたいなこと言ってるし、ありえないありえない。
「ほっ、ホント!?ホントにいいの!?」
「うん」
だって冗談なんでしょ?
今日だけお試し彼女みたいな感じで遊んでみるのも面白そうだし、向こうから「嘘でした~」と切り出して来るまで乗ってあげよう。
立夏が頷くと、咲那は花咲くような笑顔を浮かべてへとへととカーペットにへたれこんだ。
「え、ちょっと、大丈夫?」
「あー、うん、だいじょうぶぅ。ちょっと安心したら腰が抜けちゃって…」
随分演技派だな。
さっき告白する時も結構迫真な感じだったし、エイプリルフールって思い出さなかったら普通に真に受けてそうだな私。
「咲那、意外と俳優とかいけちゃったりして」
「は、俳優…?なんで?」
「いや、何でもない」
何のことやらと首を傾げる咲那。
首を傾げてる姿が何だか可愛くて、私も咲那の隣に腰を下ろす。
しばらく無言でいたら、急に咲那がにやにやしだした。
「どしたの?」
「いや、今日から立夏が私の恋人なんだと思ったらさ、その、嬉し過ぎて…」
両手で頬をぺちぺち叩いて抑えようとするも、我慢できないと言った様子で笑顔が溢れてくるようで、私が見ていると照れくさそうに目を逸らす。
演技だと分かっていても、そんなに照れられたらこっちまで照れてしまう。
でもそうか。
今日だけだけど、咲那は私の彼女なのか…。じゃあ、せっかくだし恋人っぽいムーブしてみようかな。
「咲那、ここ座って」
両足を開いて間をポンポンと手で示す。
咲那は一瞬何を言われているのか分からないと言った表情を浮かべ、やがて理解したのかごくりと唾を飲み込み、小さく頷きとてとて立夏の股の間にぽてんと座る。
後ろから咲那のお腹の前に両手を回し、肩に顎を乗せる。
最近ちょっと温かくなってきたけどまだ少し肌寒くて、咲那の体温が心地いい。
小学校の頃はよくこうやってハグしたりべたべたくっついていたけど、中学に上がって咲那が一段と可愛くなってきた辺りから何となくお互いに距離感が離れてしまって、そういう機会も減ってしまっていたから、こうやってくっつくのは久しぶり。
ちょっぴり気恥ずかしいけど、何だか嬉しい。
「咲那…あったかくてきもちいい」
長い黒髪がちょっとくすぐったいけど、咲那特有の安心する匂いがして落ち着く。
月1で…いや、週1…いや、毎日一回くらいこうやってハグしたら自律神経も整って健康的な生活を送れそうだ。
流石にしつこくて鬱陶しがられるだろうけど。
なんて考えていたら咲那がもぞもぞしだす。
「あ、あの、立夏。その、そろそろお昼ご飯、食べよっ」
「うん?あー、もうそんな時間か」
言われてみればお腹空いたな。
咲那が立ち上がって離れて行ってしまう時、ちょっと名残惜しいと思ったけど、まあこれくらいなら恋人じゃなくてもたまにならやってくれそうだし、今度機嫌のいい時にでも頼んでみようかな。
「さ、先にキッチン行っとくね!」
「うん。よいしょっと」
私がよっこら立ち上がってる内に、咲那はさっさと部屋を出て行ってしまった。
別にそんなに急ぐことでもないのに、まあ別にいいけど。
えっちらおっちらリビングに向かうと、咲那がキッチンでスマホと睨めっこしていた。
集中しているのかこちらに気付く様子はなく、忍び足で後ろから近付き、ばっと抱き着いた。
「なに見てるのー?」
「わぎゃっ!?」
何だかよく分からない奇声を発しながらびくりと驚く咲那。
小動物みたいで可愛い。
画面には『オムライス 簡単 作り方』で検索をかけた形跡があり、レシピが表示されていた。
「オムライス!やった!丁度食べたいと思ってたんだよねぇ…って、咲那?」
さっきから一切の反応を見せない咲那の顔を覗き込むと、何故か顔を真っ赤にして口をぱくぱく開閉していた。
驚かせすぎたかな?
「私も手伝うよ。とりあえず必要なもの揃えるね」
「わわ、わかった」
そうして若干使い物にならない咲那と共に、ちょっと不格好なオムライスを完成させた。
「ほんとごめん、立夏。私、全然使い物ならなかったよね…」
「ん?あー、まあ確かにいつもより心ここに在らずって感じでアレだったけど、一緒に作ってて楽しかったからいいよ。いつも割と作らせちゃってるし、たまにはね」
「面目ないでしゅ…」
「とにかく食べよっか。ちょっと形はアレだけど美味しそうだし。冷める前にね」
「うんっ。いただきます!」
「いただきます」
二人で両手を合わせて食前の挨拶をしてからスプーンで掬って口に運ぶ。
レシピ通りに作ったから、味は無難に美味しい。
一昨日くらいから食べたかった念願のオムライスにありつけてにこにこしていたらふと正面から視線を感じて見れば、咲那が私の方をチラチラ覗き見ていた。
「なに?」
「い、いや、その、美味しそうに食べる立夏が可愛いなぁとか言ってみたり…へへ…」
なんのこっちゃと思いつつ、咲那に可愛いと言われて悪い気はしない。
だって私からしてみれば咲那の方がずっと可愛いし、咲那は嫌味なことは言わないってわかってるから本心だろうし、素直に嬉しい。
「そう?ありがと。咲那も可愛いよ」
「ふぇ…?んぐっ、げほっ!ごほっ!」
「ちょ、ちょちょっ、大丈夫!?はい!水!」
急に咽だした咲那の背中を擦りながら水を渡す。
咲那はちびちびと水を飲み込み、段々と落ち着いて来た。
「落ち着いた?」
「う、うん。ありがと…でも、その、急に可愛いはちょっと…心臓に悪いと言いますか…」
「え?なんて?」
ごにょごにょ言うから全然聞こえなかった。
「な、なんでもない!」
「そっか」
なんか、普段から咲那は天然入っててたまに様子おかしい時あるけど、今日はずっと変だな。
「あ、咲那、口元付いてるよ」
さっき咳した時に付いたのであろう食べカスをティッシュで拭いてあげた。
何故か咲那はもじもじとしていたが、やがて可愛らしい笑顔を浮かべて「ありがと、立夏」とお礼を言ってくれた。
「うん」
あぁ、なんかいいなぁ、こういうの。
二人でご飯を作って、一緒に食べて、たまに触れ合ったりして、今までこれが当たり前だと思ってたけど、もし今後咲那に恋人ができたらこういう機会も減っていっちゃうんだろうなぁ。
それはなんというか、ちょっと…ううん、かなり嫌だな。
「…咲那、これからもし何かあってもさ、こうやって一緒にご飯食べてくれる?」
「え…え!?う、うん!もちろんだよ!その、立夏とはずっと一緒だし…私の彼女だし…えへへ」
最後の方は小さすぎて何言ってるのか聞こえなかったけど、「もちろん」と言ってくれて心の底から安心している自分がいた。
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