第14話

『そういえば草薙くん』


「なんでしょう」


『来週からテスト期間なんだってね』


「………おぅふ」


『あれれ?もしかして~…?』


「思い出させないで下さい……」


金曜日。

アーケードモードのEasyをクリアした西園寺さんにNormalを越えるための新しい要素を説明していると、急にそんな話になった。


『さすがに来週はコーチは頼めないよね…てことは自主練あるのみかぁ…』


「自主練って…西園寺さんは勉強しなくていいんですか?」


『え?いや授業だけで充分じゃない?』


「マジかこの人……」


飲み込みの速さからなんとなく分かっていたが、まさか勉強が出来るタイプだったとは。


『そうだ!来週は私がコーチになってあげるよ!』


「へ?」


『勉強!見てあげる!』


「いやあの……実は予定が…」


『なんだ…残念……』


テスト期間は恭華と誠と勉強会というのがお決まりになっている。すっぽかしたら恭華にどんだけ怒られることか……


『仕方ない……このコンボの練習でもしてるよ』


「お願いします……」



今教えているのは✕ボタンを使ったコンボだ。

マウガの✕ボタン。いわゆる特殊技は追撃投げである。コンボの〆に使えばダメージが伸ばせる。


ダウンやコンボ中に掴むことができ、その後のコマンド入力で繰り出す技が変わってくる。


決まれば強力だが、マウガの強みである起き攻めがなくなるので倒しきり以外では使いにくい…だがCPU相手なら関係ないし、初心者にはもっと関係ない。火力こそが正義なのだ。



『カッコいい……めっちゃカッコいい…』


「それは同感です。マジで神です」



かくいう俺もキャラ参戦のPVでこの技を見てからβ版で使っていたのだ。



そんなこんなで一通りコンボを教えた後、その日は解散となり、テストが終わるまではコーチングは無しということに決まった。






「慎二、そこはこの数式使って……」


「……なるほど?」


「恭華~こっちも~」


「ちょっと待って……そうそう。うん」


「…………おぉ解けた!」


「やるぅ!」



週が明けた月曜日。

テスト期間に入り、俺の家でいつものように勉強会をしていた。


「なー早くこっちきてくれよー」


「うるさい分かってるって…」


2年になってから格段に難しくなった問題達とにらめっこしながら解いているのだが、明らかに恭華だけじゃ人手が足りない。


「私の勉強が出来ない……!」


「そりゃ俺らだって頑張りたいんだけどさぁ」


「マジで難しすぎて気が狂いそう」


「どうすれば………」


その日の勉強会は思った以上に捗らず、3人とも頭をかかえながら終わってしまった。






次の日の昼休み。


「どうしたらいいものか…」


「恭華が分身してくれればなぁ…」


「流石にそれは出来ないだろ……」


パンを食べながら単語帳を片手に話し合っていた。


「でもこのままじゃまずくね?」


「そりゃそうなんだけど……」


「うーーーーん………ん?」


ふたりで何かないかと策を練っていると誠が突然俺の隣の席に視線をやった。


「………ん?なんですか?」


そこには昼御飯を食べ終え、1人で勉強している西園寺さんがいた。


「あの、大変申し訳ないんですけど……」

「勉強とか……出来ます?」


「え、それはもちろん……」


「でしたら…その……教えてもらうことって出来ませんかね?もちろん恭華もいるんで、そこんとこは心配ないと思うんですけど…」


「え?」

「は?」


何を言い出すかと思いきや誠はそんな提案をしだしたのだった。


「いやいやいや!西園寺さんだって忙しいだろうし…そんないきなり…ね!?」


「………私はかまいませんよ?」


「なぁ!?」

「マジっすか!?あざす!」



思いもよらない角度から勉強を教わることになって動揺しまくっていると、西園寺さんは嬉しそうに俺に微笑み、誠に見えないように小さくVサインをしてきたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る