第15話

昼休みに西園寺さんに勉強を教えてもらう事が決まり、放課後にその事を恭華にも伝えた。


「え、いやありがたいけど……いいの?」


「はい。私は全然」


「西園寺さんもこう言ってることだしさ!ちょうどもう一人欲しいって話してたじゃん?」


「えぇ………慎二はどうなの?」


「俺は………」


正直今の俺達の状況からしてみればとても喜ばしい事なのだが…


「………ダメですか?」


「いや…そういう訳じゃ……」


俺個人としては気まずいなんてもんじゃない。

このモードの西園寺さんと話した事なんてほとんど無いからボロが出ないかとヒヤヒヤする。


「はぁ……背に腹はかえられないか…」


悩んでいる俺を見て恭華はタメ息をつくと、悟ったかのような表情でこちらを見てきた。


「慎二は私が見るから、西園寺さんは誠を…野崎くんをお願いね」


「…分かりました」


誠の事を頼まれた西園寺さんは一瞬グッと顔を歪めたがすぐに戻し、笑顔でそう答えた。


「西園寺さん…何卒……よろしくお願い致します…」


「あ、いえいえこちらこそ」



そういうわけで各自の教師が決まり、俺の家で勉強会が始まったのだが…


「えっとそこはねぇ。そう。うん完璧」


「やっと解けた………」



「そう。うん。野崎くん飲み込み早いね!」


「でっしょ?やーーーやっぱやれば出来ると思ってたんですよねぇ!」



勉強会はリビングで行われているのだが…


「じゃあ次これとかどう?」


「もう完璧っす。任せてください!」



(なんだ………なんかモヤモヤする…)



机を挟んだ目の前で西園寺さんと誠が隣り合わせで勉強をしているのがどうしても気になってしまう。


「慎二?集中してる?」


「してる……してるけど………」


もちろん恭華だってかわいいし良い奴だ。隣で座って教えてもらってドキドキしないわけはない。


だけど、それ以上に、なんかこう……


「そういえば野崎くんってゲーム得意なんだよね?」


「え……まぁそっすけど…」


「昼休みとか楽しそうに話してるからさ。いつも気になってたんだ」


「え、あ………なんか、あざすw」



(……………ぐぬぬぬぬぬ)


「……わりぃちょっとトイレ行ってくるわ」


「はーい」



目の前の光景から逃げるようにトイレに入り、ズボンを脱がすに便座に腰掛ける。


「はぁぁぁぁぁぁ……」


大きなタメ息をつき、頭を抱え、余計なことを考える。


(そうだよな。別に隣だっただけで……逆だったら誠だったんだろうな……)


配信モードから察せられるが、西園寺さんはコミュ力自体は相当なモノだ。そもそもオタクではないだろう。


(どうしよ……誠の方が面白い奴だし……このまま…)



『誠くんに教わることにしました!だから…その…契約解除してもらってもいいですか?』



「はぁぁぁぁぁぁぁ………」



コンコン



再びタメ息をついてると扉がノックされた。


(誰だ……?誠か…?)


「……すまんもうちょい待ってくれ」


「………なーに凹んでんの慎二」


「…恭華か」


ノックの正体は恭華だったようだ。


「別に凹んでなんか…」


「嘘じゃん。タメ息ついてたじゃん」


「……大した話じゃねぇよ」


「そう?なら深くは聞かないけど……」


これ以上心配されても困るのでトイレから出る。扉の前には恭華が心配そうな顔をして待ってくれていた。


「……悪い」


「大丈夫。気にしないで」


恭華は優しく微笑むと何も聞かずにそのままリビングに戻っていった。


(……良い奴だなマジで)


俺もそれに続くかのようにリビングに戻ると、西園寺さんと誠がペンを置き、スマホを眺めていた。


「あ、長かったな」


「私達も丁度良いので休憩にしようかと思いまして」



この1時間でふたりの距離は縮まっているように思えた。


(…………ってなに考えてんだ。別にまだそんな関係でも…)


「んで?何見てるの?」


「実はさ、西園寺さんもVTuberとか見るらしいんだよ。だから推しを見せてもらってたんだ」


「見るといっても最近の方はあまり詳しくなくて……昔から見てる方がいるだけですが…」


「……どんな人なんですか?」


西園寺さんの推しというのが少し気になって聞いてみた。まさか男では……


「姫野アリアって方なんですけ―――


ゴッッッ

「いっっったぁ!?」


机の定位置に戻りながら話をしていると不注意からか恭華が机の足に指をぶつけたようだった。音からして目茶苦茶痛そうだ。


「……大丈夫か?」


「ぜ、全然……だだだだいじょぶ……だいじょぶだから………」


強がってはいるが顔は真っ赤だし、明らかに動揺している。やっぱり相当痛かったらしい。

そして俺も定位置に戻り座った後で西園寺さんが動画を見せてきた。


「ほらこの人です……かわいいでしょう?」


画面に映っていたのは白くて長い髪に、これまた白のドレスという見た目のいかにも~なお嬢様だった。


(よかった女か………ってだからぁ!)


「この前3Dのライブがあったんですけど…ダンスが本当にお上手で…あ、歌もお上手なんですけど……とにかく凄いんです!」


「なるほど」


「つまり、私の推しって訳なんです!」


「へ、へーーー……そうなんだ…意外、だなーーー」


「どした恭華?声震えてっぞ?まさかまだ痛いのか?」


「え、いや!?…そんな……震えてなんか」


「ちなみに震えまくってるぞ」


「ですね」


「気にしないで……あはは…」



その後、休憩も終わって再び勉強に取り組んだのだが…今度は恭華が西園寺さんの方をチラチラ見始めたのだった。

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