最終話 阿多の告白

ブラックハートは、伸ばした両手から黒いビームを放つ。


「ブラックハートキャノン! 最大パワー!」


黒いビームはズドーンと轟音を上げながら、市街地側にいる愛花へと迫る。愛花は呆然として、黒い光を見つめている。ヒーロー達も同様のリアクションだ。


駄段が声を上げ、泣き叫ぶ。


「嫌だぁ。ワシはまだ死にたくないんだぁ! まだまだ、モテたいんだぁ!」


黒いビームは辺りの塵を吹き消しながら、黒い大蛇の様に橋の上を先行していく。 その時、一つの人影が動く。ブラックハートと愛花との間に入る様に、飛び込んで来る人物がいる。


キモクサマンだ。アホなヒーローは、黒いビームの射線上に入る。そして、両手を伸ばし、力を込め、踏ん張る。


ドオンという凄まじい衝撃音が場を支配する。キモクサマンは、黒いビームを両手で受け止める。衝撃が彼の身体を襲う。受け止めた掌は皮がむけ、血が流れ出す。


黒いビームが、受け止めているキモクサマンを押し潰そうとしている。キモクサマンは全身の力を振り絞り、必死で黒いビームの進路を阻止する。


「キモクサマン、やはり、飛び込んで来たか! 改めて言おう! 貴様は頭が悪い! その技の前ではいかに、今の貴様とはいえ、無事では済むまい。死ぬが良い!」


ブラックハートは更に力を込め、黒いビームに勢いを与える。ビームを受け止めているキモクサマンは、ズルズルとゆっくり後退している。


「うがああああああああああ……」


キモクサマンが叫ぶ。彼の身体が更に黄金に輝く。そして、力一杯ビームを押し返す。その力により、ビームはブラックハートへと跳ね返っていく。ブラックハートは自分のビームを浴び、吹っ飛ばされる。


キモクサマンは、火傷を負った様な身体で全身から、煙の様なものが出ている。腕は力なく、だらんと垂らしている。


「バカな、バカな、バカな。あの技を跳ね返しただと。俺の、第二形態の俺の最大の技だぞ……。ふざけるなよ……」


失望の表情のブラックハートは、ゆっくりと立ち上がる。そして、再びキモクサマンを睨み返し、叫びながら彼に襲い掛かる。


ボロボロの姿のキモクサマンは、腕をスッと上げ、構える。そして、乱心状態のブラックハートを迎え撃つ。


ブラックハートは渾身のパンチを放つ。黄金のキモクサマンはそれを左手で防ぐ。そして、嵐の様なパンチをブラックハートに浴びせる。


「いけーっ! キモクサマン!」


ヒーロー達は力の限り声を出し、応援をする。


そして、キモクサマンは振りかぶり、全身全霊を込めたパンチを放つ。その拳はブラックハートの身体を貫き、辺りに鮮血が飛び散る。


「ぐはっ、こ、この俺が負けるだと……。第二形態を使ったこの俺が、こんなアホな奴に。認めぬ。認められぬ……」


ブラックハートは口から血を吐き、最期の言葉を絞り出す。そして、最強の怪人は息絶える。キモクサマンは、ブラックハートの身体を貫いた腕を引き抜く。そして、市街地側のヒーロー達の方を向き、崩れる様に倒れる。


「やった! キモクサマンが勝ったぞ!」


ヒーロー達から歓声が上がる。駄段は力なくその場に座り込み、呟く。


「この天才のワシだけの力では、負けておった。阿多くんと愛花さんの力のおかげだな。いや、待てよ。それでは、ワシが目立たぬ。ワシの力でどうにか勝った事に出来ないかな? なぁ、みんな?」


駄段は、みんなから無視をされた……。



   *   *   *   *



ヒーローと怪人の戦いは終結した。ヒーロー達は怪人達に勝利したのだ。


この事により、怪人による犯罪は、ほぼ皆無となり、人類は怪人からの支配を免れる事となった。


S市の人々は後に、川中橋の戦いの事を知る。そして、この戦いで命を懸けた英雄仮面同盟のヒーロー達を称賛した。


しかし、一番の功労賞であるキモクサマンの活躍は、伏せられる事となる。これは、嫌われ者のキモクサマンが突如、世界を救ったなどということになれば、世の中混乱すると、駄段の判断があっての事だ。


その一方で、駄段は世界を救ったヒーロー達のボスということで、世界中から絶賛された。噂では、モテにモテまくったらしい。最大で八人の女の子と同時に付き合っていた様だ。


そして、世の中が平和になった今、あの男がようやく目を覚ます……。




阿多が目を覚ますと、そこは知らない天井だった。身体中が痛い。阿多は痛みを感じながら、自分の身体に視線を送る。


全身、包帯でグルグル巻きにされている。そして、白いシーツのベッドの上に寝かされている。ここは、ひょっとしたら病院なのか、阿多はそう思いながら、周りをキョロキョロと見渡す。


誰もいない。やはり、ここは病院の個室なのか。阿多はこれまでの事を思い出そうとする。


怪人との戦いはどうなったのだろう。阿多はキモクサマンの時の記憶がない。自分が生きているということは、怪人との戦いに勝利したのだろうか。


阿多がふと、そんな事を思っていた時、この部屋に誰かが入って来る。愛花であった。


「あ、愛花さん! 何で、ここにいるの?」


キモクサマンに変身している所を見られたはずなのにと、阿多は不思議に思い、ベッドから身体を起こす。


「だって、阿多くんが怪我してるからでしょ。だから、来てるんだよ」


愛花は微笑みながら、阿多を見つめる。阿多は困惑して話を進める。


「だって、僕がキモクサマンだって……」


「えぇ、知ってるわよ。だって、貴方が必死で怪人達と戦っている所を見てたからね」


阿多はますます混乱し、愛花に質問をドンドン投げ掛けていく。愛花はニコニコしながら、それにドンドン答えていく。


そして、阿多は彼女が全てを知ってしまったんだと理解する。彼は言おうと決めていた言葉を、とうとう口にする。


「愛花さん、僕は知っての通り最低のヒーロー、キモクサマンです。それでも、貴方の事が好きです。こんな事を言える立場じゃないんですが、僕の彼女になって貰えませんか?」


愛花は阿多をじっと見つめ、しばらく沈黙する。


「最高のヒーローの間違いでしょ! これからも阿多くんの彼女として、よろしくお願いします」


笑顔の愛花が阿多に抱き付く。阿多は顔を真っ赤にして、オロオロする。


「お取り込み中、邪魔して悪いな」


このタイミングで、いやらしい顔をした駄段が病室へと入って来る。阿多と愛花は照れながら、さっと離れる。


それから、阿多と駄段は、川中橋での戦いの事について話を始める。ブラックハートの事、怪人の事、積もり積もった話で二人は盛り上がる。その話を愛花は笑顔で聞いている。


「キモクサマンが世界を救った事、秘密で良かったのか? 今から事実を訂正すれば、君は英雄になれるが……」


駄段は阿多に確認するように訊ねる。


「世界を救った英雄なんて、僕のキャラじゃないです。キモクサマンの事は、今のまま秘密でお願いします」


阿多は首を横に振り、言葉を返す。そして、阿多は左手のブレストを外し、手に取り見つめる。


「駄段さん、キモクサマンのブレストをお返しします。もう、僕には必要ありません。守るべき人が出来きましたし、今の僕は弱くはありません。ブレスト無しで、みんなを守れる男になります。アホではなく、賢い男に僕はなります」


駄段は、阿多から手渡されたブレストを受け取る。そして、無言で頷く。


それから、数ヶ月後……。


街で変態科学者が、色んな人にナンパ師の様に声を掛けている。しつこい様子で、みんなから断られ続けている。


この男の名前は、駄段健三(だだんけんぞう)と言った……。何て声を掛けているのだろうか?


きっと彼は貴方に、こう声を掛けて来るだろう。


「あなたは世界で一番強いヒーローになりたいですか? (注)ただしアホになりますが……」と。


















































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