ロイ・ムーデアナの場合
ロイ・ムーデアナの人生を変えたのは婚約者の少女だった
ロイは第二王子であり、代替品だ
とある国では優秀な方に跡を継がせる国もあるようだが、ムーデアナ国では産まれこそが全てだった
だからこそ、ロイは兄であるレール・ムーデアナより全てにおいて劣っていなければいけなかった
兄の体型が痩せ型でどれだけ食べても太らなければロイの食事はパン一切れから水のみと減っていき
兄の教育が思わしくなくなればロイが許されたことは頷くことと首を横に振る意思表示だけになった
全ては兄を代替品よりも優秀に見せるために行われた方策で、いつだってふらふらして歩くだけで死にかけていたロイを気に掛けるものなど誰もいなかった
兄の代わりとして兄より劣り続けていることが普通だと思っていたし、それが自分の歩む道だと思っていた
彼女に会うまでは
レデアナ・ユークリフ
現実に表れた女神のようだと噂されており一時期は王妃になることまで検討されたいた母親と豊かな体系もさることながらその利発的な思考や試案で民たちから人気の熱い父親を持つユークリフ家の長女。金髪の長い豊かな髪と澄んだような青い瞳を持った天使のような麗しさと深き知性を兼ねそろえている彼女が自分の婚約者になったのは兄の好みが原因だった
全てにおいて完璧に見える彼女だったが、ただ一つの問題
発育がよくなかったのだ
この国では男性にも女性にも発育の良さが好まれる
この場でいう男性は目元が隠れるほどの肉付きの良さ、女性は胸元が強調される発育の良さだ
彼女はたった一つ、その点が問題で兄の好みにそぐわなかった。だが、公爵家の一人娘ともなれば外にもやれず他の貴族に嫁ぐにしても家柄が高すぎる
その点を踏まえて選ばれたのは代替品だった
「なんでこんなにも痩せているの?私の隣に並び立つのにこんな姿でいいと思っているの?これから食事を増やしなさい」
「見目で私を楽しませられないならその話術で楽しませなさい。話せない?私が話せと言っているのよ」
「私を誰だと思っているの?貴方は私のための装飾品でなくてはいけないのよ。そんなぼろ雑巾みたいな身なりをしないで」
天使のような外見とは裏腹に彼女は苛烈で熱烈な女性だった
お見合いというなんも決まった顔合わせの時、緊張感と嫌悪感のある雰囲気を隠しながらも笑顔で接してくれた彼女の両親よりも先に目に入ったのは彼女の露骨なほどの嫌そうな顔だった。すぐに罵倒を受けたが、初めてのことで何が何だかわからなかった。
彼女は両親にすぐに連れていかれたがその日の夜は食べきれないほどの食事が出てきた。食べてすぐに吐いてしまった夕食後に彼女がメイドたちを𠮟りつけて用意させたのだと聞いた
次の日も彼女は来て私を罵倒した
その日の夜は何もない部屋に本が置かれた。彼女が大臣たちを𠮟りつけて用意させたのだと彼女の来なかった日に聞いた
数日後彼女は表れて少し肉付きのよくなった体をみて満足そうに微笑んだが、私が女神と称えるとまた嫌そうに罵倒して帰っていく
その日の夜から部屋着というものが用意された。彼女の前に行くときに少しでも恥ずかしくない格好ができるのだと嬉しかった
肉付きもよくなってきて彼女がたまに見惚れるような仕草をし始めたあの日。少し調子に乗って手を伸ばして愛を乞うてしまったことに腹を立てた彼女が怒って城を出て行き、馬車の縁に頭を打って軽い気絶をしたその日を境に彼女は不思議な行動をするようになった
罵倒することは少なくなり、痩せるように指示され兄と同じような体系になった
私を見て頬を染めることが多くなり、私からの接触を拒まなくなった
父親や自身の配下たちにダイエットなるものをさせて私と同じような肉付きになるようにトレーニングをさせ始め
母親とよくお茶を飲むようになり、妹との関係も良好になった
皆がおかしくなったのだ、優しくなった、熱烈や苛烈になった、異端児だと色々なことを言う
そして一様に変わってしまったといった
でも、私は変わっていないことを知っている
瘦せ細って皮と骨しかない、利用価値もない第二王子の健康状態をよくしろと自分のお金を使ってまでメイドたちに料理を用意させた優しさは変わらない
ろくな教育を受けていなかった私のために城で会うことも難しかった大臣たちに時間を作らせ掛け合った熱烈さは変わらない
部屋着から外着まで彼女の父親の服をリメイクしてきれるようにして持ってきてくれた苛烈さは変わらない
ただ、方向性が変わっただけで彼女の瞳の奥にあるものは何も変わっていない
「レデアナ、俺の女神」
「……も、もう。言い過ぎだって言ってるでしょう」
「言い過ぎなことなんか何もないよ。俺だけの女神様」
「ロイったら…」
手を取り、頬を染める彼女の手の甲に口づけを落とす
優しく微笑む彼女は今までの姿とはまた異なる美しさを宿している
だからこそ、虫は間引かねばならない
レデアナの優しさと女神のような美しさを称え始めた彼女の配下たちがちょうど通る時間に外へと聞こえるように窓を開けて会話をしていることをレデアナは知らない
窓の向こうにいる者たちが私たちの姿を見て顔を青ざめ傷ついたような顔をしていることなんか知らなくていい
その瞳に映るのはどうか自分であり続けて欲しい
そう願いながらも私はまた彼女の望みを叶え続けるのだ
私のただ一人の女神を愛するために
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