カオスティックワールド

いがみしん

ミッション1

ミッション1




『――俺が、此処にいる事は奇跡かそれとも……』






 ――5515年に勃発した世界勢力戦争 (世界大戦)、後の十年大戦は、ルーンヴァレイ公国と帝国ベラスの協定により終戦を迎えたがその八年後。世界は再び混沌の渦に飲み込まれようとしていた。その打開策として、ルーンヴァレイ公国の世界法案維持連合局、略してミッド連合は、十年大戦の際に送り出した特別防衛軍のSDを今から一年前の5536年に再結成させたのだった。



 十年大戦終結から約十二年。5537年の九月中旬。一年ほど前に再結成されたSDに、リース・ブランズは新隊長として就任した。



『パパ (制作者)がとまっちゃった。ううん。本当は死んじゃったの。あの人が……あの人がきっとパパを殺したんだ。あたしの頭がそう言ってる。だから――あたしは逃げなきゃならない。パパの命よりも大切な、あたしを守るために。―…あたしは、逃げなくちゃならないんだ』






 リースはそこで目を覚ました。


 正夢らしい非現実的な考えに一笑した彼は半身を起こす。ベッド脇のカーテンに目をやれば陽光が降り注いでおり朝であることが分かった。


 ボンヤリと霧がかった頭に克を入れるべく洗面台に向かい顔を洗い、ふと鏡を見ると疲労気味の自身の顔に苦笑をこぼす。


 手短な洗面を終えると一本のコール音。すぐさまデスクホーンの受話器を取った。



「…はい」


『お早う御座います、リース・ブランズ大尉』


 受話器の先から聞こえる柔らかい声。


「…お早う御座います。ベニア・キャルバン大将補佐殿…」


『就任早々悪いけれど、SDが森林公園にてダルイレム国の北天騎士と交戦の模様。すぐさま現場に直行してくれるかしら?』



 受話器を通して伝達を受けリースは少しばかり重い溜息を吐き軍事寮を後にした。






 森林公園はSDが身を置くミッド連合第一支部から三キロ程離れた場所にある。リースが現場に駆けつけた頃には、交戦していたSD四人は防戦の態勢となっていた。



 軽い溜息を吐き、リースは腰から長さ二十五センチ程ある金属製の筒を取り出した。握り易く加工されたラバー製のグリップに先端は空洞部がある。それを剣のように軽く振ると、


 ――ブォン


 と、微かな電動音を発した。


 そうすると筒の先端から薄い水色の『光刃』が産まれる。【サイソード】と呼ばれるこの代物は、マシンテクノロジーによって産み出された所持者の精神エネルギーを具現化した刀剣の一種。





「ーーッ?」

 狙撃隊五人余りの後ろに控える一人の男が、こちらに歩み寄ってくるリースの姿を捉えた。

「な、何だお前はッ?! ここは一般人が立ち入る場所ではないぞ!」

 驚きの表情を見せた男は兵長なのだろう、他の隊員より少し格式ある軍服を身にしていた。




「……」


 歩みを咎める様な兵長の声にリースは無言で立ち止まり兵長を一瞥する。


 滑稽とも言える赤い軍服着込んだ彼らは、ダルイレム国のハイツベッカー領土、ハルツカ北天騎士第三部隊であった。




「お前はッ?!」


 北天騎士と対峙していたのは、濃い紺のバトルスーツを身にするSD四名。その内の一人、格闘を得意とするホルス・リターナもまた驚いた表情でリースを見た。



「……何部隊いる?」


 リースはホルスの言葉には答えず隣に立ち並び、兵長を見据え静かに口を開いた。


「お、おう」

 一瞬呆気に取られたホルスだが短く頷くと、

「これで最後だ」

 少し安心した面持ちとなって笑顔で言う。



「前衛の騎士隊はお前に任せる。俺はーー」


 リースは兵長の前に並ぶ後方部隊の狙撃隊を軽く見据え左手でもう一つのサイソードを手にした。


「後方部隊をやる」


 両手に鈍く輝くサイソードを構え踏み切る為に腰を少し落とした。

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