姉を好きになりまして。

沖野なごむ

第1話 姉と幼馴染。

 俺には好きな人がいる。


拓斗たくと

「なんだ? 椎名しいな


 学校からの帰り道。

 幼馴染の七島椎名ななしま しいな

 幼馴染というだけあり、保育園の頃からなんだかんだ一緒にいる腐れ縁。


「そろそろ付き合わない? あたし、拓斗のことずっと好きだし」

「知ってる。けど無理。好きな人いるし」

「……シスコン……」

「うるせっ」


 椎名は美少女である。

 なので告白されるなんてのは男からしてみれば大変有難いことである。そしてそれは百も承知だ。

 ゆるふわで少し色素の薄いボブヘアーと整った顔立ち。


 もはや身内みたいな俺の感覚なのを考慮しても美少女。

 高校でも「胸さえあれば完璧」と言われているほどの美少女である。


「やっぱ胸なの?! あたしの胸が無いからダメなの?!」

「…………わからん。けど椎名は兄妹みたいなものだからな」

「今しれっとあたしを妹扱いしたよね? 一応あたしの方が生まれた日は早いんですけど?」


 俺と椎名に男女特有の緊張感はない。

 椎名の両親は共働きで昔から俺の家に出入りもよくしていたし、今でもよく一緒に姉ちゃんと3人で飯を食うこともある。

 なんなら姉ちゃんとも椎名は仲がいい。合鍵だって椎名は持っている。


「で、なんで桃姉の事が好きなわけ?」

「いやそれ前にも聞いたろ?」

「変わってるかもしんないじゃん」


 これで何度目のやりとりだっただろうか。

 もう覚えてないくらいには多い。


「ツンデレなところだな」

「シスコン」

「あと目元のホクロがえろい」

「変態」

「あと胸がデカい」

「死ね」

「黒髪ロングが似合ってる」

「それはちゃんと桃姉に言った方がいい」

「あと飯が美味い」

「……たしかに桃姉のご飯は美味しい。それは悔しい」


 姉ちゃんは高校を中退してバイト先のスーパーに就職した。

 頭も良いし成績優秀、大学にだっていい所にいけるはずだった。

 けど父さんと母さんが死んで、それから姉ちゃんは高校を辞めたのだ。


「正直、あたしが男だったら絶対桃姉の事嫁にしたいって思ってたわね。それくらい『いい女』なのはわかるわ」

「だろ?」

「黙れシスコン」


 ゴミを見るような目で見るのは止めてもらいたい。

 仕方ないのだ。

 そういうものなんだから。


「けど、姉弟で恋愛って難しいのは知ってるでしよ?」

「知ってるよ」

「半分とはいえ血が繋がってるんだから」


 うちの親は共に施設育ちだったらしい。

 母親はバツイチで姉ちゃんは母親の連れ子。

 俺は再婚した母と死んだ父親との間にできた弟である。

 このいびつな血の繋がりが俺の性癖を狂わせたと言ってもいい。

 実の姉弟ではなく、半分だけの血の繋がりだと聞かされたのは両親が事故で死ぬ前。俺が中学2年の頃だった。


 その時からなんとなく姉ちゃんの事は好きだったけど、血を分けた姉だしその時はまだ健全な方だったが、半分だけという歪な繋がりは多感な男子中学生を狂わせるには充分だった。


「大人しくあたしと付き合って結婚しとく方が幸せになれると思うわよ?」

「しれっと結婚まで話進めんなよ気が早すぎるだろ」

「ちっ。既成事実を少しでもと思ったのに」

「椎名さん、怖いです」

「こうなったら、大人になったら豊胸手術をするしか……」

「椎名。胸が無くても好きだって言ってくれる人はいると思うぞ? な?」

「うるさいわね。あたしは夏が嫌いなのわかる? 毎年桃姉と拓斗と3人で海行くたびに絶望するの!!」

「毎年胸元がふわふわヒラヒラしてる水着だもんな」

「うるさい死ね。仕方ないでしょ……」

「いっそスク水の方が需要ありそうじゃないか? ちゃんと胸元に『しいな』って平仮名で名前書いてさ」

「いよいよぶん殴るよ?」

「あ、すみませんでした」


 顔はやめてくださいせめてお腹でお願いします……


「拓斗、明日はバイト?」

「ああ」

「じゃあ明日は一緒に帰れないじゃん」

「仕方ないだろ」


 居酒屋でバイトをしているので、毎日椎名と一緒に帰っているわけではない。

 殴るとか死ねとか罵倒も多い椎名だが、こういうところだけは素直である。

 実際、姉ちゃんの事を好きではなかったのなら、俺は椎名と付き合っていたのだろうなと思う事はよくある。


「そう言えば、今日は家来るのか?」


 家が見えてきて、後の予定を確認する。


「ううん。今日はママが早上がりだから」

「そうか」


 椎名が家に来るのは両親が残業で遅くなる日だけだ。

 この辺は住宅街で治安も良い方だが、それでも学生の娘を家に1人ではとの配慮である。

 昔からの仲でもあるし、俺らも七島家もお互いにそこは助け合いながら生活をしている。


「じゃあ、また学校でね」

「おう」


 椎名と別れて俺も家のドアを開けた。

 二人暮らしには少し大きい家。


「拓斗、おかえり」

「ただいま。姉ちゃん」


 今日は姉ちゃんも早上がりだったらしい姉ちゃん。

 普段の早上がりならこの時間帯は晩御飯作ってくれてたりするのだが、今日は姉ちゃんの様子が少しおかしい。

 笑顔でもなく、怒ってるわけでもない。


「拓斗」

「ん?」

「これはなぁに?」


 姉ちゃんが背後に隠していたエロゲのパッケージを持っていた。

 そしてそれは、俺が「姉もの」のエロゲを大量に持っているという事が姉ちゃんにバレたということであった。

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