後日談。と言うか、今回のオチ──

 あたしはクラスに絶妙に馴染めていなかった。


 ”絶妙”という言葉がつくのは、クラスで除け者扱いされていたとか、いじめられてたとか、そういうことではないから。


 必要最低限の人間関係は成立していて、学校生活に支障をきたすことはない程度の孤立っぷりで、担任の先生が腰を上げて動くような大きな問題ではないくらいの、ただ本当に絶妙にという他ないくらいのもの。


 中途半端に留学前にクラスメイトだった上級生と繋がりがあったせいで、寂しさを余計に感じてしまっていたんだと思う。



「──2年のいる新放送部に戻るのもいいんだが、1年のいる旧放送部はどうだ?」


 ──ある日、二宮先生から突然そう言われた時は驚いた。


 そもそも9月という中途半端な時期に入部なんて、旧放送部の部員から厄介扱いされないだろうか……という不安が顔に出たのかもしれない。


「そう心配するな。二人ともバカだがいい奴だ。自然体でいればいい」

「え……二人しかいないんですね?」


 そんな部活があるとは知らなかった。


「そもそも旧放送部は色んな手違いの上で成立したというか、3年のバカ共が1年を騙して勧誘したせいで続いているというか……まあ実は公式には存在しない部活なんだが、どうだ?」

「そんな事言われたら不安しかないんですけど!?」


 聞いたことがないような勧誘の言葉だ。


「まあ私からの大きな借りだと思って、一旦部室に遊びに行ってやってくれ。すぐに馴染む未来が見える」

「は、はあ……わかりました……」


 ──という経緯で、同級生の知り合いができるかもしれないということで、あたしはかつての放送部の活動場所だった、旧校舎の放送室に足を踏み入れた。


 ……結果として色々と記憶に残る顔合わせとなったけど、後悔はしてない!……多分。


 それから部室に頻繁に行くようになって、クラスでは相変わらず微妙な距離感があるもの、旧部に居場所ができたから退屈しなくなったのは本当によかった。

 だけど流石に急に放送に乱入してくるなんて聞いてないよ?


 ……こんな言い方をすると、「そもそも言ってないよ? だから大丈夫」とかいう謎の高速カウンターが飛んできそう。


 でも白崎くんが放送に乱入してきた時は最初、本当に心臓が止まるかと思うくらい焦ったけど、


『まあ任せとけよ』


 とでも言いたげな、親指を立てて得意げに笑う白崎くんを見て、まあきっと大丈夫なんだろうと思って、その場の流れに身を任せることにした。


 その結果……大変な目に遭ったような気がするけど、クラスに戻ると予想を超える大反響があった。


『更級さん、cubeに入ってたんだね!』

「う、うん……いつの間にか」

『頭いい人扱いして……ほんとごめんね……』

「謝ってるんだよね? それ煽ってないよね?」

『あの二人と同じ部活で……大丈夫?』

「不安しかない」


 二人のことをあれこれ勝手に言うことで、クラスの人とちょっぴり仲良くなれた気がしたので、今回のことは大目に見てあげよう。



 ──と思っていたんだけど、どうやら白崎くんが大変な目に遭っているみたい。




 ◇




 ──月曜の昼下がり。


 俺は実家のリビングのソファに身を預け、心地よくまどろむ至福の時間を過ごしている。

 スマホの電源はオフにしており、ただ穏やかに流れるこの時間をひたすらに満喫している。


 ──窓から差し込む柔らかな光が、リビング穏やかな雰囲気をもたらしている。

 外は青空が広がり、夏の終わりを感じさせる涼し気なそよ風がリビングに入ってくる。

 風に揺られて木々のざわめきの調べが、家の中に流れる優雅なクラシック音楽に合わさり、耳を澄ましているだけで癒やされるような、温かな雰囲気がリビングを包んでいる。



 ──今日は月曜だが、学校公開の振替休日。


 やはり平日に学校を休めるというだけで、俺の心は雲一つない澄み渡る青空のような爽快感に満たされている。

 この世にこれほど素晴らしいものはないだろう。



 ──結論から述べると、一昨日の放送は目的を十二分に果たした放送となった。


 更級は昼休みにクラスに戻ると、クラスメイトから生暖かく迎え入れてもらったらしいと二宮が言っていた。

 まあ更級のコミュ力なら、きっかけさえあれば上手くやってけるだろうし心配はいらない。


 これが伝聞なのは、一昨日、放送を終えた俺は教室に戻ることなく保健室に直行し、そのまま仮病で早退を敢行したからだ。

 もちろん寮に戻らずに家に帰ってきたわけだが、その理由は当然自分の身の安全を確保するため。


 嫉妬に狂ったクラスメイトとなるべく距離を置かないと、死にかねない。

 ちなみに二宮は一昨日の神月凛襲来時、感動のあまりずっと号泣していた影響で、昼休みの放送もほとんど頭に入ってこなかったらしい。

 あいつ凛が来たときも一言も喋ってなかったもんな。


 一昨日の放送直後からクラスメイトたちが急に、


『お前に渡したいものがあるから、今どこにいるか教えてくれ』


 だとか、急に俺のRINE上で神月凛を名乗るアカウントが大量発生して、


 ─────────────────────

 お兄ちゃんからソラさんのRINEをこっそり教えてもらいました。

 今日は会えて嬉しかった……♥

 この後、このお店で二人で秘密のデートしよ……?

 ─────────────────────


 だとか、やたら俺の現在地を確定させたがるメッセージが送られてくるようになった。

 だが甘いぜ──そもそも凛の兄とソラが同一人物なんだよなあ!!


 はっはっは!──全然甘くない件について。

 一昨日の公開授業で凛に手を取られた瞬間、退路は完全に絶たれた。

 次にクラスメイトに会う日が俺の命日だろう。


 ……しかし神月さん大量発生については、RINEのアカウント名と画像を凛っぽくするという行為に伴う代償を彼らは認識しているのだろうか?

 今頃家族や友達は、”見てはいけない一面を見てしまった……”と頭を抱えていると思う。



 スマホの電源を落としているので、クラスメイトたちからの温かい祝福の言葉を見なくて済んでいるわけだが……そろそろってやつを直視しなければならない。


 これまでの経緯を振り返ろう。


 俺と二宮は突如、校内放送をする羽目になった。

 それをなんとか乗り越えたらいつの間にか全国デビューを果たし、気がつけば柊木芸能学園が主催するコンテストの動画部門を受賞し、知名度が格段に上昇。


 しかし夏休み以降はcubeは鳴りを潜め、今回約2ヶ月の空白期間を経て久しぶりの校内放送となったわけだ。

 全国のリスナー、通称cubistたちも待ち望んでいたことだろう。


 そして今回の放送は、注目が集まる学校公開の日に更級に偽の放送をさせたところに参謀が急遽乱入する形で始まった。

 更級からしてみれば、当時の俺たちと同じくドッキリを仕掛けられた側だ。


 俯瞰してみれば、やからが突然乱入し、いたいけな女子高生をからかってそれを全校生徒に聞かせるという、普通にトラウマもんの所業をやってのけたわけだが、これがどういう結末をもたらしかというと──



 スマホを手に取って電源を入れる。

 そこに浮かんでくるのは──


 ─────────────────────

 無理やり放送させるなんて、いじめじゃないんですか?

 女子生徒は絶対辛い思いをしたと思う。

 ─────────────────────

 ─────────────────────

 校内放送を聞いて笑っている神経が理解できない。

 完全にいじめじゃん……

 ─────────────────────

 ─────────────────────

 なぜ学校側はそんなものを放任しているのか

 ─────────────────────

 ─────────────────────

 女子生徒がかわいそう

 ─────────────────────

 ─────────────────────

 学校側は放送を首謀した男子生徒に然るべき対応を。

 ─────────────────────




 ──SNS上の自称コメンテーターたちのお気持ち表明の数々。


 そう。



 俺は今──絶賛大炎上中らしい。



 第5章学校公開編──完。




─────あとがきのこーなー!──────


「久々のあとがき!」


『しばらくストーリー的にあとがきを入れづらいタイミングが続いたからな』


〈そうだよねー〉


「……」


『……』


〈あたしが急に喋りだしたからって黙るの止めてよ!?〉


「いや……急に更級来たからびっくりしちゃって」


『紅葉ちゃんよ、別に無理しなくてもいいんだぞ?』


〈無理してないし! あたしもcubeの一員になったんだから二人だけやるのはずるいじゃん!〉


「まあいっか……というわけで、第5章が終了! いやーお疲れっした!」


『オレ、後半ほとんど出番なかったんだが?』


〈あれ、二宮くんって第5章いたっけ?〉


「こいつナチュラルに煽ってやがる」


『妹に煽られる……悪くないぞッ!』


〈重症だね……〉


「第6章の燃え盛る業火編はizumi曰く──主人公の窮地に今までの仲間が颯爽と駆けつける王道胸熱展開が待ってるらしいぜ! ……どうせ援護射撃が俺に当たるんだろうなあ……」


『今まで出番がなかったあの人も登場するかもしれんぞ!』


〈楽しみ!〉


「全国のcubistのおかげで、★は3000に到達! フォローは大台の5000間近!」


『そしてなんと──本日ちょうど100万PVを達成したぞ!』


〈おめでとーっ!!〉


「ちなみに現在、現代ドラマ年間2位、そして全期間ランキングで16位!」


『ついにそこまで来たか!』


〈すごいっ!〉


「お礼が遅れて本当に申し訳ないけどギフトをくれた方、ほんとありがとな!」


『妹よ、誠に感謝だ!』


〈この恩は忘れないよっ!〉


「さて、そろそろあとがきを締めようと思うけど、ここまで読んでくれた全国のcubistたち! まじでさんきゅーな!!」


『全国の妹たちに無償の愛を!!』


〈リスナーさんたち、ありがとね!!〉


「今後はスローペースな更新になってしまうと思うけど、全国のcubistたちからの応援を励みに放送を重ねていけたらと思う!」


『★でも♥でも感想でも愛でも何でも待っているぞ! 本当に励みになる!』


〈リスナーさんたちへの感謝はizumiさんの近況ノートでも綴っているのでチェックしてね!〉


「というわけで──今回のあとがきのお相手は、cube参謀のソラと!」


『cube代表のリクと!』


〈えと、cubeの……あれ、あたしってもしかして役職ない?〉


「あっ……」


「あっ……』


〈えっ……?〉


「……また次回よろしくな!」


『妹たちよ、また会おう!』


〈スルーしないで!? ねえ仲間はずれはよくないと思うなっ!!〉

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