一応フォローしておくと、更級は黙っていればただの金髪碧眼超絶美少女です。


 更級とのコミュニケーションタイムも終わり、俺と二宮はそれぞれの趣味に戻った。


 ふう……ちょっと集中したいからヘッドフォンを装着するか。


 今どきのTVゲーム、というか大抵のゲームはちゃんとサウンドにL&Rが振られている。

 ゲーム上で発生する音の位置間隔とサウンドが対応しているので、ゲームによってはヘッドフォンをしないと索敵などの音を頼りにするアクションに大きく差が出たりするわけだ。


 それに、これまでは俺と二宮しかいなかったから特に気を使うこともなかったが、更級もこの部室を使うのであれば音がうるさいのもあまり良くないだろうし。

 今まで男二人だから特に気にしていなかったが、色々と配慮しないといけない事も出てくるだろうな。



 ──10分後。


 ふう……やっぱこのゲーム面白いんだよな……!

 あと学校の中で行うゲームというのは非常に趣があるわ。

 状況が既に非日常だから、普段のゲームよりもテンションが上がるし。


 そういえば2人はどうしてんだろ?

 もうそろそろ昼休み終わるし帰ったかな?


 と、ヘッドフォンを付けたまま後ろを見る。


 そこには、真剣な表情でノートPCを見つめている二宮と──そのちょっと後ろに立って二宮の画面をこっそり覗き見ている更級の姿。



 なんだろう……非常に嫌な予感がする。

 恐る恐るヘッドフォンを外すと──


『おにーちゃん……あたしの初めて──もらってくれる?』


 と、切なげなメロディーと共に女性声優の艶かしい声が聞こえて──


「おおおぉぉぉおおおいいい!?」


 慌ててノートPCを叩き閉じる。


「何をする!? 今非常にいいところだったんだぞ!?」

「いやいやお前場所考えろよ!? 女子いんだぞ!?」


 こいつ……18禁ギャルゲープレイしてやがった……。


「…………そういえばそうだったか」


 全く気にしてなかった様子の二宮。


「見ろよ! 更級が書店の18禁コーナーに迷い込んだ中学生みたいに、顔を赤らめながらもどうしても目を離せずにこっそり覗いてんだから!」

「ち、ちがっ……あ、あたし全然見てなかったし!」


 更級が尋常じゃないくらい首を振って否定するが、じゃあなぜ顔が赤いんだという疑問が生まれる。

 問い詰めるような野暮なことはしないであげるけど。


「お前な……更級がいるんだから控えてやれよ……」


 ……まったくこいつは油断ならないやつだ。

 普通女子がいる空間で18禁ゲーやる発想になるか?


「ふむ……確かに紅葉ちゃんにはまだ早かったな……すまん!」


 二宮は更級に頭を下げる。

 まったく……二宮も愚かなことをするものだ。


「どう見たってこいつセクハラ枠じゃないだろ? 後からもっとふさわしいヒロイン出てくるだろうし、それまでその大事なカードは切らずに取っとこうぜ?」

「確かにその通りだな……すまん白崎!」

「二宮……わかればいいんだ……!」

「──なんでナチュラルに謝る相手変わってるの?」


 二宮には深く反省してもらいたい。

 そんな大事なセクハラパターンをこんなところで無駄撃ちしようとするなんてまったくだぜ……。


「それにな、子供の教育に良くないと思わないか?」

「あたし年上だしっ! お姉さんだから……こ……こ、これぐらい知ってるもん!」


 更級が恥じらいながら言葉をなんとか振り絞っているが、明らかに無理をしている。


 なんというか……もし仮にこれが俺の好きな女子だったとしたら、どんな反応をするか見てみたい気持ちも少なからず生まれていたと思う。


 その感情を否定するつもりは男子として毛頭ない。


 でも、なんか……不思議と更級に対してはそんなやましい気持ちが一切出てこない。


 それどころか、家族にエロいヤツ見てるのがバレたときみたいな、いたたまれないというか、なんとも言えない気まずさのようなものしか感じない。


「ごめんな更級……お前には早かったよな……」

「だ、だから! あたしお姉さんだから知ってるもん! 男の子って二宮君がやってたゲームの女の子たちみたいにむ、む……胸が大きな人が好きなんでしょ!? そ、そうなんでしょ! だよね白崎くん! そうでしょ!」

「お、おう……ま、まあそうだけど」


 更級の謎の圧に屈する形の、唐突な巨乳派宣言。

 俺は一体何をさせられているのだろう?


「あ、あたしだって……む……」

「ん?」

「む……胸あるもん!」


 と、高校生レベルに収まらない豊かでたわわな自らの双丘を──ぐいっとたくし上げた。


「「………………」」

「ほ、ほらっ!」


 更級は頬を赤らめながら目をつぶって、自らの恵体を見せつける──


 ……。(目をつぶって羞恥に耐える更級)


 ……。(目を開けて俺たちが固まっていることに気づく更級)


 ……。(自分は何をしているのか理解する更級)


 ……。(ゆでダコのように真っ赤になる更級)


 ……………………。(気まずすぎて早く時間が過ぎ去ってほしいと思う3人)




「……更級。無理して男子ノリについて来る必要はないんだって」

「……うん。なにやってんだろあたし」


 やっと冷静になった様子の更級。


「そんなはしたない真似は紅葉ちゃんには似合わん。もっとするべきだ」

「自分を大事に……うん、そだね……!」


 まるでB級ラブコメのお色気キャラのような自分を安売りする真似なんて、俺たちは更級にしてほしくない。


 ──もっと自分自身を大事にしてほしい。


「それに勘違いがないように言っとくんだけど……大きければいいってもんじゃない」

「うむ……において、妹はまだまだだな」


 俺と二宮はお互いに目を合わせて頷き合う。

 男の矜持としてこれだけは言っておかなければならない。

 俺たちは譲れない信念を言葉にする──


「「おっぱいは形や大きさが大事なんじゃない──」」

「……へ?」


「「──誰についているかが重要だ」」


「…………もっとあたしを大事にしてよっ!!」

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