前の2話はネタのためだけにめちゃくちゃ時間費やして書いたから褒めて。あと今回の話のネタ提供ありがとね──母さん。


 ──オレの妹の存在がバレたら……一体どうなるのだろう?

 バレないようにしなければ……。


 ◇



 ──柊木寮の自室にて。


「なあ二宮……お前にイマジナリーシスターがいるとして、その妹の機嫌を損ねたらどうする?」

「ふむ……そうだな……そういったときは上辺だけの謝罪では駄目だ。誠意を見せる必要がある」


 ──流石の二宮だ。


 訳の分からない仮定に何の疑問も抱かずに答えてくれるなんて。

 俺はなんて友を持ったんだ……めっちゃ引くわ。


「なるほど……誠意か……」

「誠意は──言葉ではなく行動で示すべきだ」

「……一理あるな」


 たしか駅前のカフェを奢る約束をしてたんだよな……完全に忘れてた。

 先日のTV番組出演の様子を見るに、凛さんは激おこらしい。

 謝るのは早いうちが良いのだが……連絡しても無視されてしまう……。


 普通に謝るだけじゃ駄目だ。

 ここは二宮の言う通り──誠意ある行動をしないといけないわけだが……。


 俺が見せられる誠意とは……誠意とは……誠意とは……


 そうか──これだっ!!




 ◇




『さて……この中に凛たんの兄がいる事はわかっている』

『手荒な真似をしようっていうんじゃない』

『大丈夫。ちょっと話し合いをしたいだけだからね』


 なるほどね。

 じゃあ──その手に持った狂気の凶器は一体何でしょうか?



 共有スペースに集まった男たち。

 今回の議題はもちろん──凛たんの兄探しだ。


 だが、名乗り出なければバレることはないはずだ。


 こういうときにボロを出す俺ではない!


 と、ポケットに入れたスマホが震えた。

 母さんから電話だ。


「わりい、ちょっと母さんから電話来た」


 そう言って共有スペースを出て、階段の踊り場に腰掛けて電話に出る。



「もしもし」

『あらあ、あんた凛空じゃない! 元気?』

「そっちが掛けてきてんだろ……電話のシステム分かってんのか?」

『あら、今どきは進んでるのねえ』

「……」


 俺の母さんは色々なところが抜けている。


 だが──うっかり屋とか、天然とか、そういった可愛い言葉の類で表現できるレベルではない。


 話が全く通じない、俗に言う、キャッチボールがドッチボール系の人だ。

 迂闊にコミュニケーションを取ろうなどと思ってはいけない。


「ちなみに……凛の様子はどう?」

『それがねえ……この前のTV番組に出た後から、ご近所さんから”凛ちゃん大きくなったね”って本当に反響が凄まじいのよ。やっぱりTVって凄いのね……』


 ご近所レベルでも反響があったとは……あの放送の余波は計り知れないな。


 ……あん時のあいつ、まさに今までの人生における100点を叩き出しましたって感じの気合の入れようだったもんな。

 結婚式に向けてメンテナンスを重ねてきた新婦完全体めいたものを感じたもん。


『お外に行く時も帽子や眼鏡を掛けるようになったわね……まあ人気が出るのも大変よねえ』

「さいですか」


 そーいや二宮も似たような状況だが……まああいつはそもそも柊木寮に住んでいる時点で、そこまで大きな影響はないか。


「ちなみに俺のこと何か言ってなかった? っつか今凛そっちにいる……?」

『今日は凛ちゃんお仕事で遅くなるって聞いてるわ。伝言でもあるなら伝えとくわよ』

「いや……それはいいや」


 これはちょうどいい。

 誠意を見せるうってつけのタイミングかもしれない。


 ……ちょっと色々準備するか!


「そーいや、そもそも一体何の用の電話だよ?」

『用件? 何のことよ?』

「……は? いやそっちが電話してきたんじゃん」

『そうだったかしら? あたしは何の要件でアンタに電話したのよ?』

「なんで俺に聞いてんだよ!? ……もう切るぞ?」

『うーん、最近──ちょっと調子がおかしいのよねえ……』

「えっ…………大丈夫かよ?」


 母さんも40代後半。

 まだまだ老け込む年齢ではないが……心身に色々な不調が訪れてもおかしくはないだろう。


『最近、なんだか忘れっぽいのよねえ……』

「お、おう……」


 その年齢なら、多少の物忘れが目立っても不思議ではない。


 だが……若年性アルツハイマー、つまり──認知症の初期症状という可能性も、無いとは言い切れない。


「……一旦病院に行って精密検査でも受けた方がいいんじゃないか?」

『そうなのよ。それでこの前病院に行ったら、先生に、ナントカ症の傾向が見られるって言われちゃって……やあねえ忘れっぽくて……なんて言われたんだったかしら?』

「え……ほんとに……まじで……?」


 ……。


 電話口の向こうから聞こえてくる母親の声が遠のいていき──足元がぐらつくような感覚に襲われる。


 ──いやいや、おいおい……いやまじで言ってんのか?


 いや落ち着け。まだ認知症と決まったわけじゃない。


 だが仮に母さんがそうだったとしても、早期発見なら症状を改善する手立てもある。

 最近では進行を止める療法もいくつか発見されていると聞く。


『そうそう! 思い出したわ!』

「……!(ごくりっ)」


『仕送りにみかんとオレンジどっちがいいか聞こうと思って電話したのよ!』


「そっちじゃねーよ!! ってか同じだろそれ!?」

『凛空、あなたさては勉強してないわね? 厳密には違うのよ、もっと精進なさい』

「……俺なんで怒られてんの?」


 相手に取りやすいように俺が投げた会話のボールを、キャッチもせずに新しいボールを取り出して、豪速球をぶつけてくる。


 こんな人とどうやってコミュニケーションを取れと言うんだ? 古田でも呼ぶか?


『それと──お医者さんからなんて言われたかも思い出したわ』

「……えっと」

『あまり……家族に向かって言いにくい病気なんだけど……』

「病気……っ!? な、なんて診断、さ……された、んだ?」


 緊張のあまり声が震えてしまった。


 だってしょうがないだろ?

 自分の母親が病気だなんて、できることなら考えたくはない。

 しかも、電話越しでも伝わる少し深刻そうな声。


 ──だが目を背けるわけにはいかない。


 どんな軽い病気も深刻な病気も、まず大事なのは患者の家族が病気を正しく理解し、支えてあげることだ!


 そして母さんは病気のカミングアウトという──最も辛い瞬間を今から迎えることになるんだ。


 家族が──ましてや息子が母親の病気を受け入れなくちゃどうするんだ!!



『母さんね──」

「……っ(ごくりっ)」


「──心配症っていう病気なの』


 電話をぶん投げた。





─────あとがきのこーなー!──────

「久々に後書きのコーナーの時間!」


『うむ!』


「まずはギフトをくれた人、本当にありがとう!」


『恩に着る!』


「★2000、フォロー3000、50万PV!」


『現代ドラマのランキングもあらかた取れたぞ!』


「まあさすがに今はランキングも落ちついてきたけどな」


『うむ、まあそれは仕方ないというものだ』


「これからちょっと更新頻度が落ちるかもだけど、まだまだ突っ走ってくことを約束するぜ! 面白え展開が山盛りだ!」


『izumi曰く、”まだまだ期待してくれ”と!』


「おおっ!」


『”izumiの真の実力はこんなもんじゃねえ”と!』


「頼もしいぜ!!」


『”メッキが剥がれる前に畳もうかな”と!』


「知ってた!」


『というわけで妹たちよ、まだまだ応援頼むぞ! 周りの妹にもおにーちゃんたちの素晴らしさを布教してくれ!』


「まだまだ盛り上がってこーぜ! あと今回の話の感想も待ってるぜ!」

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