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ガタガタ。
いつの間にか、万理が救急箱を持って来ていた。手当をするから、右手を出せと言われた。全く怖がることなく、傷を見ている。お兄ちゃんの指だもん。怖くないよと言ってくれた。
「絆創膏を巻くからね。じっとしててね」
「巻くと動かしにくいよー」
「いいからっ」
万理が涙を浮かべながら怒った。さっきから胸が痛くて堪らない。それは彼女も同じだと思う。
「ごめんね。こんなお兄ちゃんでさ。泣かしたくないのに」
「謝らないで。謝るぐらいなら、こういうことをやめてよ。みんなが心配してるって分かっているでしょう?森本君だってさーーーー」
森本は仲のいい友達だ。中学時代からの付き合いで、高校でも同じクラスだ。通っている開明高校は、全国から生徒が集まっている。同じ中学からは森本と俺だけが入った。同じ中学の子がいないから良かったと思った。中学生のときは喧嘩三昧だったからだ。
街を歩けば同じ年齢ぐらいの子から喧嘩をふっかけられていた。それなのに、森本は俺のことを怖がらなかった。お前はいい奴だから一緒にいる。そう言われた。ちゃんとお礼が言えないままだ。今も世話をかけている。
開明高校の中では森本だけが中学生時代の俺のことを知っている。森本は俺のことを噂にしない。ずっと黙ってくれている。優等生の仮面をつけていることもだ。もちろん森本からも心配されている。せめて優等生のふりだけでもやめたいと思い始めた。万理も同じ意見だった。
「お見舞いのドーナツ欲しさに怪我をしてるんだよ。森本もスイーツ男子だし」
「もう……。冗談はいいから。お兄ちゃんには笑っていてもらいたいの」
「いつも笑ってるよ?」
「そんなことないくせに!」
万理が抱きついてきたから、そっと背中に腕をまわした。この子のためにも、こういうことをやめなきゃいけない。でも、どうやって?いつも答えは出なかった。
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