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こんな状況でも、家族以外で信頼している大人がいる。土手で俺達を助けてくれたドラッグストアの店長の安原さんと、高校入学時からの担任の田中先生だ。田中先生は、俺の優等生のふりをやめるように言うこともなく、信用するよう求めて来なかった。入学したばかりの時に、こんな言葉を掛けられたことを覚えている。表情がない、人形のようだ、生きているのかという言葉で揶揄ってきた相手と殴り合いの喧嘩に発展しそうになった話をした時のことだった。
『目つきのことで喧嘩を振られているのか。知っているよ。喧嘩をしたくないのにね』
『優等生のふりをして乗り切ります』
『そのうちやめよう』
『先生、俺に言いたいことがありますよね』
『僕のことを無理に信用しなくていい。でも、僕は中山君のことを見ている。人を一発でも殴ったら退学だよ。君は頭の良い子だ。暴力を使わない解決方法を知っているはずだ。校長先生と交渉したよ。手を出すのは禁止だが、口げんかぐらいは構わないからね』
『どうしていいんですか?』
『嫌だという意思を伝えることは悪いことじゃない』
『ここに入学してよかったです。ありがとう……』
『素直な子だね。これからよろしく!』
『はい!』
中山君のことを見ているからね。その一言が嬉しかった。信用できる大人の三人目以降はいない。
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