第9話 確認

 翌日。

 まだ痛む頭を軽く叩きながら、志木はベッドから下りる。

 すでにルーナは起きていて、軽く身支度をしていた。

「おはよう」

「おはようございます」

「今日はブルーベリーを買いに行くんだったね。今は収穫時期だから、新鮮なブルーベリーが市場に並んでるはずよ」

「いいですね」

「ついでに、明日以降の依頼も確認しておきましょ」

 そういって二人は宿を出る。

 市場に着けば、ブルーベリーを売っている店はすぐに見つかる。

 そこでブルーベリーを買った。

「とりあえず目的は果たせましたね」

「次はアタシの番ね」

 そういってルーナは、さっさと歩いていく。

 10分ほど歩くと、とある建物に行き着く。

「ここが、この街の冒険者ギルドね」

「はぇー、立派ですね」

「そうは言っても、そんなに仕事はないわ」

 ルーナはギルドの扉を開ける。

 志木も中に入ってみる。中は酒場と兼用のようで、カウンターの横には巨大な掲示板が掲げられている。

 しかし、その掲示板に張り紙はほとんどなく、受付の職員も椅子に座って本を読んでいる。

 一方で、酒場のほうは賑わっており、ワイワイと騒いでいた。だが、その年齢層を見ても、比較的高齢の男性がほとんどである。

「この街は内陸に位置しているし、魔物もほとんど出ないわ。街はエルフの村への中継地点というだけで成り立っている、とてもアンバランスな街なのよ」

「はぁ……」

 ルーナは掲示板の前に立つ。

「それにこの街の冒険者は、自分に合った依頼を受けるのが困難。誰でも出来る依頼か、誰にも出来ない依頼くらいしかないわ」

「あー……」

 志木はなんとなく察する。

 ルーナは掲示板に貼られた数枚の依頼書を見て、一つを手に取る。

「アタシはこれを受けてくる。少し準備が必要だから、また市場に行ってくるわ。カイトは先に宿に戻ってていいわよ」

「分かりました」

 その言葉通り、志木は先に宿に戻る。

「さて、石鹸のほうはどうなってるかな……」

 ベッドの下に置いてある石鹸を取り出す。

「だいぶ固まってるな。問題なさそう」

 そうと決まれば、すぐにリトマス試験紙を作る。

 とは言っても、かなり簡単だ。

「ブルーベリーを潰して……」

 潰す道具がなかったので、素手で丁寧に潰していく。

「ここに水を加えて、よく混ぜる……」

 木べらで果汁がよく出るように、軽く潰しながら混ぜる。

「これを薄い布にしみ込ませて……」

 本当ならコーヒーフィルターかキッチンペーパーでもあれば良かったのだが、あいにく異世界には存在しないため、ガーゼのような布で代用している。

「後は乾かせば完成……」

 乾くまで約1時間。乾燥すれば淡い赤色の布が完成するだろう。

 乾燥したのを確かめていると、ルーナが戻ってきた。

「必要なものは完成したの?」

「えぇ。色々と代用しましたが、これで反応を確かめます」

 今回使う分だけ布をカットし、準備は整った。

「では、石鹸が出来ているかを確認します」

 志木は、少量の水と作った石鹸の欠片をコップの中で混ぜ合わせる。

 十分に混ざったところで、布をコップの中に入れる。

 すると、サッと青色に変化した。

「ちゃんとアルカリ性になってますね」

「これで色が変わるのか……」

 ちゃんと色が変わった。初めて作ったにしては上出来だろう。

 しかし、志木はまだ何か考えていた。

「どうしたの、カイト」

「この石鹸がアルカリ性であることは分かったんですが、その強さが分からないですね……。化学式とか使えば、この辺はスッと分かるんですけど……」

 残念ながら、志木の頭はそこまで良くない。

(あまりにも強アルカリ性だと、皮膚に炎症が起きる可能性がある。かといって、自分の体で試すわけには……)

 もし自分が使うと考えると、安全性が担保出来ていない。そんなものを使ってしまっては、身体に影響を及ぼす。

「そうだなぁ……。ここは一つ作戦を立てるか」

「作戦? どういうこと?」

「今回作った石鹸は、ただ材料を適当に混ぜただけに過ぎません。つまり安全かどうか分からないんです」

「ふむ。そうなると、街の外の浮浪者に使わせるのはどうかしら?」

「浮浪者なんているんですか?」

「どの街にも少なからずいるわ。彼らに使わせるなら、何とかなるんじゃないかしら」

「しかし、いきなり人体実験みたいなことをするのは……」

「大丈夫よ。彼らに石鹸とパンを一緒に渡せば、大抵のことは言うことを聞いてくれるわ」

(人権ってものがない……)

 志木は若干引いた。

 しかし、他に方法もないため、それで行くしかなかった。

 こうして、それぞれの材料の量を変えた石鹸を作るところから始まる。

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