第1章3 総体地区予選
33. 地区予選迫る
放課後、視聴覚室に集合した。
先日の練習試合の動画から課題を確認するためだ。
「全員集まってるな」
岩平が入ってきた。無駄な前置きはなしで動画を再生する。動画は東陽の部員が撮影してくれたものだった。
時間的に全試合は観られない。観たい人はDVDに焼いてくるから続きは家でとのことだ。
自分が出ている試合をみんなで観るのは楽しみである反面気恥ずかしくもあった。
岩平の選んだ場面場面の映像を観終わった。
「個人技は抜きにして、チームの動きとしてどう思った」
「やっぱスペースの取り方が悪い。試合中も思ってたけど、こうやって動画で確認するとさらにひどいね」
先陣を切ったのは舞だった。
スペーシングの悪さによって、オフェンス時にスクリーンをかけるわけでもないのに隣の選手との距離が近くなり、ディフェンスが一人で二人を守れてしまう状況や、味方が邪魔になってディフェンスが増えたような状況を作ってしまっている場面が多々あった。
「そっ。チームプレー=スペーシングだからその辺しっかり理解した上で練習するぞ」
再び動画を再生する。今度は岩平の解説付きだ。チャプターをつけてあったらしく際立ってスペーシングの悪いシーンへ飛んだ。
抜粋した悪いプレーの解説が終わった。体育館へ移動する前に岩平が言った。
「さあ、ステップアップしようか」
遥は一つ上の段に足をかけたような気持ちになった。
練習試合では負けた。総体で勝たなければいけない相手はもっと強いかもしれない。それでも遥はこれから強くなれるチームの可能性にわくわくした。
地区予選抽選日当日。
放課後。練習メニューをこなし、クールダウン中のことだった。もなかが帰ってきた岩平を目ざとく発見した。
「おかえりー」
岩平は体育館に入るやもったいぶった顔つきになった。
「どうだった?」
杏が聞いた。
「
「強いの?」
「うちの地区の第二シード」
「地区で二番目に強いってことだよね」
「そうなるけど第一シードとほとんど差はないらしい。二人でかいのがいて高さだけなら箕澤のほうがあるらしい」
「えー、なんとなく第一シードより怖いね。それでどんくらい強いの、どんくらいでかいの」
「まあそう慌てるなって」
地区予選は八校で行うトーナメント戦。県大会に出場できるのは三校。決勝まで勝ち進んだ二校と、それ以外の負けチームで行う敗者復活戦トーナメントでの優勝チームが県大会出場権を得る。
初練習試合からしばらくして、「そろそろオフェンスで一本組み立てたいときのフォーメーションとかセットプレーほしいよね」と持ちかけたのは舞だった。
満場一致で賛成となり、早速チームに適したフォーメーションやセットプレーを考えたり探したりが始まった。
こんなこともあろうかと、と動画サイトで再生リストに登録しておいた目ぼしいセットプレーなどの動画や、自分で録画した試合をシーンカットで編集したもの、さらにはそれらの動きを図解したプレイブックまで、国内外のプロ・学生に関係なく様々な参考資料を環奈が用意していた。
岩平は、自分たちでいろいろ考えて練習試合で試してみろ、と言った。俺もいくつか用意するけどな、とも。
遥は幸せだった。こんな一体感を味わうことは中学時代には決してできなかった。
全員が同じ方向へ進もうとしている。奇跡だと思った。
反面、何か悪いことが起きるんじゃないかと怖くなることがあった。あまりにも順調すぎたからだ。
ぱらぱらマンガをめくるような早さで月日は流れ、地区予選前日を迎えた。
金曜日の練習後、赤と白、二種類のユニフォームが配られた。
番号の若い順に一人ずつ呼ばれ受け取る。部員数的にユニフォームを貰えるとわかっていても岩平が名前を呼ぶ瞬間は緊張した。自分が何番をもらえるかはお楽しみだからかもしれない。
『4』舞。『5』杏。『6』もなか。『7』つかさ。『8』遥。『9』早琴。
『8』過去に一度もつけたことのない番号だった。これまでこの数字に特別な気持ちを抱いたことはなかったが、自分の番号になった途端に愛着が湧いた。
体育館を後にし、いつものように自動販売機前でたむろしていると、考え事をしているのか、つかさの様子がどことなくいつもと違うような気がした。
「つかさちゃん。どうかした?」
「れのも大会に出てくるのかと思って」
つかさの元チームメイトを目撃した早琴の情報が正しければ、彼女は日本の高校に通っている可能性が高い。
環奈がこちらを向いた。
「れのさんってどういうプレーヤーなんですか」
「れのは、ディフェンスのスペシャリストって言われてた」
「強いチームの、しかも高校生に混じってる中学生がそう言われるって相当ですね。つかささんでもそのディフェンスは手強かったですか」
「うん。あんまり楽には打たせてくれない。敵にしたら厄介だと思う。でもおもしろそう」
つかさちゃんにそう言わしめるほどのディフェンス……。
どれほどのものなのか遥にはうまく想像できなかった。
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