21. 御崎VS東陽


 東陽高校バスケ部監督、松葉は選手たちに集合をかけた。


「とりあえずディフェンスはハーフのマンツーからな」

「じゃあ私はあのゴール下強かったやつにつこっと。いいですか先輩」


 東陽高校二年、古賀ふるが利佐りさは御崎ベンチを観察しながら許可を求めた。


「うん。あのタイプは利佐向きだしね。となると私は一番背の高い人か。厄介そうだなー」

「それじゃ私は試合早々に引っ込んだ子につく。決定ね」


 早い者勝ちと言わんばかりに続いたのは二年の原田はらだあい


「ずるいよ藍ちゃん」


 同じく二年のすみ蘭佳らんかが前に出た。


「私だってあの子についてみたいのに」


 二年の彼女たち三人と三年の二人がスターティングメンバーだ。もう一人の三年はどうぞお好きにというように口を出さなかった。


「だめだめ。身長的にもとりあえずあの子のマークは私でしょ。それに何よりエースがエースにつくのって自然なことじゃん」

「別に自然じゃないよ。藍ちゃんより私のほうがディフェンス上手いんだからエース封じって意味ではむしろ私がつくのが自然だと思うけど」


 藍は聞く耳を持たなかった。


「それより監督。監督が言ってたすごいのがいるらしいってあの子ですよね」

「お前な。らんらんの話を」

「あの子なんですよね」


 松葉はため息をついた。


「あの子で間違いないよ」

「ですよね。あ、でもあの子試合出られるんですかね。さっきまでアップしてたから大丈夫そうだけど。あの交代って怪我とかじゃなかったんですか」

「違ったみたい。今はもうガス欠状態じゃないから油断すんなよ」

「ガス欠? なんであれ、油断なんてできるわけないじゃないですか。先生だって最初のワンプレー見たでしょ。さっきアップしてる姿見ただけでも油断なんてできる相手じゃない印象受けましたし」

「ならいいけどさ」

「ま、めったにいないレベルだとしても負ける気はしないですけどね」

「がんばれ。あとらんらんにもちゃんとマーク代わってやれよ」

「わかってますって。スイッチとかヘルプよろしくらんらん」

「それ代わる気ないよね」


 蘭佳は温度のない声音で見放すように返す。


「スイッチも交代には違いなくない?」


 藍はあっけらかんと話を続けた。


「そういう交代じゃなくて」

「そんなことより、らんらんはまず自分のマークしっかり抑えなよ。だいたいさ、身長的にもとりあえずって言ったじゃん。らんらんはおチビなんだから」


 むっとする蘭佳。


「はいはい。そこまで言うなら藍ちゃんは尻尾巻いて泣きついてこないでね」


 藍が鼻で笑った。


「そんなこと今までに一度でもあった?」

「今までの話をしてるんじゃないんだよ」


 静観を続けていたもう一人の三年が肩をすくめて立ち上がる。

「なんでわざわざ面倒な相手のディフェンスしたいかな」とつぶやきコートに入った。

「ほらあんたたち整列するよ」

 


               〇



 御崎高校のスターティングメンバーは初戦同様、早琴以外の五人だ。

 整列し礼。

 東陽の十番がジャンプボールに進み出た。


「ねえ舞はん。今回はあたしが飛んでいい」

「どうぞ」

「ありがと」


 杏がセンターサークルに入った。対する十番は上背、体格ともに杏とほぼ同じ。

 遥は自陣へ引いた。


 ボールがふわりと上がった。


 腰を落とした体勢から両者跳躍し手を伸ばす。手が届いたのは同時だった。二人の力がぶつかり合ったことでボールは上へと弾かれた。両者着地するなりもう一度跳躍。今度は相手がしっかりとサークル外へ弾き、敵選手が空中でキャッチした。


 遥は相手チームで一番小柄な選手をマークする。

 選手が動きボールも動く。杏とマッチアップする十番がローポストでボールを受けた。パサーは「勝負」と言って、邪魔にならぬようマークマンのもなかを引き連れその場から遠ざかる。


 東陽が選択した最初のオフェンスは十番による杏との一対一だった。


 十番は杏にゆっくりと背から寄りかかっていくと体を捻った。腰を落としてドリブルをつく。肩で押し込まれた杏は少しだけ後ずさる。十番はさらにごりごりと押し込んでくる。そしてふっと体を起こし、杏の内側へ足を入れるとその方向へ急速回転。体を滑り込ませ杏の守りから抜け出た。

 杏は後ろからブロックしようとするも届かない。

 ゴール下でのイージーシュートを決められ東陽に先制点を許した。


「ナイシュー」の声とともにベンチから拍手が送られ、東陽の選手は自陣へ引き返していく。

 ネットをくぐったボールを拾った杏はラインの外に出て遥にパスをした。


 遥はボールを受け、敵陣方向を向く。

 つかさがこちらを見ていた。遥にはその目が明らかにボールを要求しているように見えた。初戦とはまるで違う、攻めたくてうずうずしているような目だ。

 パスを送る。


「は……?」

 つかさについていた敵から声が漏れる。

「なにそれ」


 ボールを手にしたつかさは、行く手を阻もうとした藍をまるでドリブルの練習用に置いたカラーコーンでも相手にするかのようにいともたやすく抜き去った。

 後ろに控えたディフェンスもろくに反応できず、つかさは悠々とレイアップシュートを決めた。


「すげー」


 見入ってしまっていた杏は、それから思い出したように「ナイシュつかさ」と自陣に戻りながらつかさのお尻をぽんと叩いた。


「ナイシュ、つかさちゃん」


 遥はつかさが戻ってくるのをハイタッチで迎えた。

 御崎ベンチの面々も拍手しながら口々に言葉を送った。


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