第44話 お客様待遇の監禁生活

 部屋の中に閉じ込められて早三日。その間、特に何かをされる事もなく、食事も普通に出るお客様待遇をクーヤは受けていました。部屋の外に出られないだけで、不自由は思ったよりありません。

 ただ、部屋の中にいるだけなのでやる事があまりなく、クーヤはずっと物思いに耽っていました。


 「お姉ちゃんたち、心配してるかなぁ」


 日頃から過剰なスキンシップをしている魔王姉妹。クーヤが突然いなくなってしまったらどうなるのか。少なくとも今クーヤが頭の中で考えているような、普通に心配をしているだけで済ませていないのは確かです。


 「お兄ちゃんは、そんなお姉ちゃんたちを元気づけてくれているかなぁ」


 いつも冷静で頼りがいがあるフィリオを兄としてクーヤは尊敬していました。きっと心配している姉たちを大丈夫だと励ましてくれているに違いない。クーヤはそう思っていました。


 「お父さん、お母さんは何してるかな………」


 家族の事を考えると、段々とクーヤは寂しくなってきました。今までずっとクーヤは皆と一緒でした。こんなに離れていたことは一度もありません。

 頭の中で皆の顔を思い浮かべて、目尻にじわりと涙が浮かびます。どうしようもない寂しさを感じていました。クーヤはまだまだ子どもです。誰かが傍にいて、守ってくれているのが当たり前なのです。


 「ううん。だめだよね。お父さんが言ってたんだ。僕が頑張らないと!」


 クーヤは涙をごしごしと手で拭いて、むんっと自分で気合を入れました。ちょうどそんなタイミングで、ドアがノックされました。


 「入るぞ」


 そう言いながら入ってきたのはウルフェンです。両手には皿があり、その上にはほかほかの朝食が乗せられていました。


 「わぁ!今日もおいしそう!」


 ウルフェンはこうして朝昼晩とクーヤに食事を持ってきてくれていました。衣類の用意に関しても同じで、どうやら全ての世話をウルフェンがやってくれるようでした。


 「お前………」


 目敏く、クーヤの目が赤くなっている事にウルフェンは気付きます。


 「どうしたの?」

 「いや………何でもない。飯にするか」


 気づきはしましたが、何でもないように振舞うクーヤに、ウルフェンはそれ以上は何も言えませんでした。


 「体調は大丈夫か」

 「平気だよ。元気が有り余ってるぐらい!」

 「そうか………」


 クーヤが食事をする時には、ウルフェンも一緒にとるようにしていました。他愛のない会話をするぐらいであまり話は弾みませんが、それでもクーヤはとても嬉しそうに顔を綻ばせていました。


 (泣いていたくせに、無理して笑うんじゃねぇよ。くそっ。何だこの気持ちは!)


 ウルフェンがこうしているのは父親の命令で、クーヤとの仲を深める為でした。言う事をきかせる為なら手段を選ばない男ではありますが、楽な方法があればそれでもよい、とあくまで一つの手段としてウルフェンを使っているのです。

 父親の命令に逆らう事が出来ないウルフェンは、欠かすことなくクーヤの所に通い詰めていました。次第に大きくなっていくもやもやを胸の中に抱えながら、今日もクーヤと一緒に過ごしているのです。


 「………なぁ。なんでお前はそんなに平然としているんだ。家に帰りたいと思わないのか?」


 クーヤの本音を直接その口から聞きたくて、あえてウルフェンはわかりきった事を聞きました。

 クーヤは、うーん、と悩んでから、逆に小首を傾げてウルフェンに尋ねます。


 「ねぇ、君の事をこれからうーちゃんって呼んでいいかな?」

 「はぁ!?意味わかんねぇ。突然なんだよ」


 どぎまぎしながらウルフェンは後退りました。うーちゃん。ウルフェンのウからとった愛称なのでしょうが、愛称で呼ばれた事なんてウルフェンは一度もありません。動揺を隠せず、話の脈絡がなさすぎて本当に意味がわかりませんでした。


 「ダメかな」


 凛々しい男の子の顔で迫るクーヤ。普段とのギャップも相まって、クーヤ大好きメンバーが今のクーヤを見たら、悶絶してしまいそうですね。


 「わかった!わかったから、ちけーよ!お前の距離感どうなってんだよ。勝手に呼べばいいだろ!」


 クーヤの距離感が近いのは、いつもべたべたと触れ合ってくる魔王ファミリーのせいですね。あれが普通なのだとクーヤは思っています。

 ありがとう!と言いながら途端にニコニコとするクーヤに、ウルフェンは調子を狂わせっぱなしです。


 「えっとね、僕はうーちゃんの力になりたいんだ」

 「………何だと?」

 「うーちゃん、今、困ってる事があるよね?」

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