第23話 隣の席の女の子

 新学期の始め、特に新入生にとってその時期はとても慌ただしいものになります。

 何もかもが新しい授業、集団での学校生活、身体測定や授業参観、運動会といった行事。

 どれ一つ取っても、子どもたちにはとても新鮮に感じるものでしょう。ですがその中でも特に一つ、重要とされている行事がありました。


 「今月末には身体測定と合わせて、魔力測定も行います」


 リザ先生は帰りの会で、開口一番に子どもたちにそう伝えました。一気にざわつき始める子供たち。

 クーヤは身体測定はわかるのですが、魔力測定がどんなのかわからず、隣の席の女の子に話しかけていました。


 「ベルモットさん。魔力測定って何するか知ってる?」

 「はぇ!?わ、わたしですか!?というか、何故わたしの名前を!?」

 「え、だって、自己紹介したし皆の名前は覚えているよ」


 コミュ障のベルモットは思わず驚愕してしまいます。自己紹介の時なんて緊張でガチガチで、そんな余裕はベルモットにはありませんでした。

 クーヤは不思議そうにベルモットの事を見ていました。


 (し、視線がぁー。眩しすぎるぅ!)


 ベルモットは目を前髪で隠しています。その方が人と話す時に落ち着くからです。でも、前髪で隠していてもその顔を直視するにはあまりに危険でした。

 思わず手でベルモットは顔を隠したくなりましたが、それはあまりにクーヤに失礼です。

 ぷるぷると震えながらなんとか我慢しつつ、これ以上突っ込まれないようにベルモットは自分が知っている事を話す事にしました。


 「えっと、その、魔力測定って言うのは魔力を調べる道具でどれだけ魔力が体にあるのかを調べるの」

 「ふんふん」


 鼻を鳴らしてこくこくと頷くクーヤに、可愛いと感じてしまうベルモットでしたが、周りの女子の冷たい視線がベルモットにこれでもかと刺さっていました。


 (四面楚歌!)


 さすがのベルモットでも隣の男の子が女子に大変人気があるのは知っています。なんであんな女が隣に座ってんのよ、という視線に晒され続けていれば嫌でもわかるというものです。

 ベルモットは気持ちを落ち着けながら、説明を続ける事にしました。


 「そ、それで、まんまるい玉のような物で魔力を調べるんだけど、それの光り方によってその人の属性がわかるの」

 「属性?」


 クーヤの小首を傾げる姿にいちいち可愛さを感じてしまい、これは確かに人気がでるな、と妙に納得してしまいました。こほん、と一息をつきながらベルモットは属性について話します。


 「例えば火属性に適正がある子だと、赤く光るの。水属性だと青く、みたいにね」

 「へー!そうなんだ!面白いね!」

 (キャーーー!!)


 至近距離で八重歯を見せながら笑わないで欲しい、とベルモットはドキドキする胸の鼓動を押さえながら思っていました。彼女にとってこの笑顔はあまりに威力が高すぎます。


 「あ、そうだ。ねぇねぇ、ベルモットさんだと長いから、ベルさんって呼んでいいかな?」

 (愛称!?)


 ぎらり、とその瞬間、教室中の女子の目が光ったとかなんとか。


 「えぇっと、それは………」

 「ダメかな?」


 眉を寄せてお願いしてくるクーヤに、う゛っ、とベルモットは言葉を詰まらせます。

 クーヤは純粋に仲良くなる方法として愛称を呼ぶのがいいんじゃないかと思っていました。魔王ファミリーの中でミールやシアが、フィリオやメルトを愛称で呼んでいたからそれを参考にしたのです。


 (単純に嬉しいって思うわたしと、女子からの目が怖すぎるっ!って思うわたしと、この顔は裏切られないって気持ちがごっちゃに!?)


 対人経験の少ないベルモットは混乱した挙句、何も考えず頷いてしまいました。


 「わぁ!ありがとうベルさん!僕の事はクーヤって呼び捨てで呼んでね!」

 「それはちょっとハードルが高すぎます」


 冷静に待ったをかけてそれだけは阻止するベルモット、もといベル。結局、どうにかクーヤ君呼びで収まりましたが、女子からの嫉妬は更に燃え上がる事になってしまいました。どう転んでも悪い事になる、詰み、ってやつです。

 可哀そうですが、クーヤの隣の席になったからにはそういう運命だと思うしかありません。


 (わたしは平穏な学校生活がしたいだけなのにー!)


 ベルはそう心の中で叫んでいましたが、クーヤの隣の席になって嬉しがっていたのも事実です。ベルも女の子だという事ですね。

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