武士どもの最後

北条綱成

File1 飯富の反抗

1515年{永禄12年}


飯富源四郎は苦悶に満ちていた。

大井信達に付き従い、武田信虎と大戦を繰り広げた源四郎と、父の道悦だが、ついに追い込まれ、本拠、富田城を囲まれるに至っていた。


「今井信房様,討ち死に!」


伝来が報じたその一方に父上は思わず舌打ちをする。


「チッ」

「父上、冷静に」

「信虎めが」

「お館様もです。落ち着いてくだされ」

「うむ……」


ついに落城の近づいた富田城にはそれぞれの心も辛くなっていた。


「敵方、2の門突破!」

「先鋒板垣、止まりませぬ」



「こうなれば玉砕あるのみ。名を残したくば我に続け!」


ついに暴走したお館様。だが、山県家当主としてはそれに続かなければならない。しかし息子はまだ幼く,信虎に見つからなければ生きながらえるだろう。


隠し井戸の前に子供たちを連れて行き,子供たちに別れを告げる。


「達者でな。虎昌、源四郎」

「ちちうえ!われもたたかいます!」


今年11歳になった虎昌がそう言う。しかし俺は何も答えず,,腹心の兵衛に任せる。


「あとは任せたぞ,兵衛」

「はっ。殿も,ご武運を」

「ちちうえ!ちちうえ!」

そう泣き喚く我が息子を尻目に戦場へと赴く。


ごめんな


「それでは最後の戦をするとするか。源四郎、一番槍を頼む」

「はっ」


目の前には大勢の敵が待ち構えていた。そんな中にわずか30騎で突撃する。もう戻ることはできない。


槍を穿ち、前に進む。


永正十二年10月17日。富田城、落城。


山県道悦、源四郎 討ち死


今川勢の援軍により、翌日城を取り返すも,大井氏に戦う気力はなく,以後の戦で大井信達の戦振りは精彩を欠く。




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