第2章 メンバーを集めて
第27話 借金したい
馬車を降り、クレインの街並みを見て俺達は驚いた。
「うわー、すげぇな」
白い石造りの街は、聞いていた以上に活気があった。
沖縄の海よろしく、透き通った水が
食べ歩きしやすい肉串や、ビールが木造の屋台で売られている。
少し街を歩けば、流れのアコーディオン奏者の奏でる音と同時に、
「お兄さん達! クレインに来たらまずはウチでしか作られていない自慢のレインボーサワーを飲まないと!」
「クレインに行ったと周りに自慢したければ、ウチの珍味料理を食うといい。一生の思い出にもなるし、自慢できる」
「どこよりも安い店を探してるなら、ここ『リオール』だよ! 他店より圧倒的安いよー!」
どこも元気に呼び込みをしていた。
まさに商業都市。ダグラスさんが言うには、夕方から夜にかけては昼の倍は活気があるという。
そしてテオが言うには、男性が喜ぶ店もあるらしい。
……行かないよ? 行かないって。行かない行かない。
でも、店の前を見るくらいはね。エルとカノンがいない時に、ちょこっとだけ。
「呼び込みの熱がすごいですね」
「お、おう! そうだな!」
「……? ど、どうかしましたか?」
「い、いや……なんでも」
急に話しかけられてびっくりした。
下心がバレたのかと思った。
「それより、チャタレーも負けてられないな」
「そうですね。平和になったら、チャタレーをここのお店に負けないくらい盛り上げたいです。そして……お父さんが大切にしてきたお店を引き継ぎたいです」
カノンは照れくさそうに頬をかいた。
クレインに向かっている間に、心の整理をつけていたようだな。
生徒の成長を喜ぶ教師の目でカノンを見ていると、カノンの顔が急に真っ赤になった。
「どどっ、どれも美味しそうですね!」
たたた、と出店が集まる広場へ走っていく。
「おーい! 悪いが、食べ歩きするお金は無いぞー! 俺たちはこのまま物件探しに行くんだからな」
……そういえば、エルの声が聞こえないな。
周囲を見渡す。
あれ、いない。
あいつどこ行った?
「あ、あそこ!」
遠くでカノンが指を指す。
その指を辿ると、
「あ、エルのやつっ!」
エルがビール片手に肉串を持ってがっついていた。腰には俺の財布を持ってやがる。
こいつマジで……っ!
俺はダッシュでエルの元へ向かい、怒る。
「こらっ! なにやってるんだ!」
「なにっへ、はへてるの」
「何言ってるかわからねぇよ」
エルは雑に
「食べてるの。せっかく下界に降りてきたんだから、楽しまなきゃ損でしょ〜」
「損でしょ〜、じゃねぇーよ! 俺たちにはそんな余裕ねーって。ここに来るまでに口酸っぱく言っただろ」
道中、カノンからクレインの魅力を聞くたび、目の輝きを増すエルに釘を刺していた。
財布を見せて、活動資金がこれくらい欲しくて、というのを事細かにねちっこく言ってきたが、徒労に終わった。
「もー、かっかしちゃってうるさいわねー。誰のおかげでチートパワー手に入れたのかしら?」
「手に入れたチートパワーが全く通用しない魔族に目を付けられてるんだが」
「♪〜」
エルは吹けない口笛を吹きながら、幸せそうに肉串を頬張る。
初めて女性の胸ぐらを掴みたくなった。
このワガママクソ女神が。
もしお金に困ったらお前の武器とか服とか全部質に入れてやる。
「とにかく、これ以上買うなよ! 財布も俺が持っておくからな。二度と奪うなよ」
「わかってるって」
心配だ。目を離さないでおこう。
エルを視界に入れつつ歩いていると、横から視線を感じる。
「なんだ? もしかしてカノンも食べ歩きしたいとかじゃないよな?」
「いや、そんなんじゃないですけど」
カノンは指と指をツンツンさせて上目遣いで俺を見てくる。
「せ、せっかくクレインに来たから、劇団ブルームーンの劇、見たいなーって」
劇団ブルームーンとは、この劇団都市クレインで1番人気の劇団らしい。
毎回題材もよく、役者も個性がある。舞台で使う魔法は、冒険者顔負けの技術。おまけにストーリーも良い。この都市に来たらまず観に行くべき、と言われる。
アイドルやるうえで参考になると思うし、個人的にも観に行きたいのだが、今はお金と時間に余裕がない。
「機会があったらな」
俺は話を打ち切って、この街の銀行へ向かった。
「まずは活動資金を得る。目標、3000万ガルドだ。頑張って借りるぞ」
♢♢♢
一軒目
「無理ですね」
三軒目
「無理です」
五軒目
「お貸しできません」
六軒目
「とにかく……っ帰ってくださいっ!」
バタン、と銀行のドアが勢いよく閉まる。
マジかよ。どこも貸してくれねぇ。
どうすりゃあいいんだ……。
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