第4話 話が違う
カランカラン。
ドアベルが景気良くなる。
「いらっしゃいませ~。酒場チャタレーへようこそ〜。あ、2名様ですね。こちらの席へどうぞ~」
若くて可愛い女性店員が駆け出し冒険者2名を席へ案内するのを見る。
冒険者が机に伏している俺を可哀想な目で見てくる。訝しんだ冒険者が、店員に耳打ちする。
「パーティが全滅したのか?」
「さぁ? そっとしておいてくれって言われまして」
「そうなんだ。まぁ、冒険者にはよくあることだしね。ここはそっとしておこう」
「はぁ~………」
そんな目を向けられるのさえ辛いと感じた俺は、目を瞑る。
「おまちどうさまでーす! こちら、ブルーサワーになりまーす」
ことっ、と音がなった。他の客と変わらず、明るく接してくれるこの店員には助けられている。
俺はブルーサワーという、青色の酒を飲む。年齢的には飲んではダメなのだが、構うもんか。それひこの国では16歳から飲酒OK。
だったら飲むだろう。
いや、飲まずにはいられない。
社会人時代は、こうやって激務を乗り越えてきたんだ。
一気に半分ほど飲む。
うん、美味い。すっきりとしたラムネ味だ。アルコール度数もキツくない。これならぐびぐび飲める。
「はぁぁぁ~~~~」
……駄目だ。美味しい酒を飲んでもため息がとまらない。
さっきまで湧き上がっていた力も気力も、とうに枯れ果てた。
魔帝城での戦いは、俺の完全敗北に終わった。
あの最後の一撃の時、俺は魔帝に渾身の一撃を食らわせると見せかけて、ありったけの魔力を込めて、魔帝の城から一番遠い場所へとワープした。
それがこの田舎町である。
転移後、とにかくクタクタなのですぐ近くのカフェに入った。そして今に至る。
――――話が違う。
チート武器に加えてスーパーな身体能力をもらった。スマホもある。年齢も若返る。ついでに美女神にも会った。
すべてが上手くいっていた。魔帝の真の強さを知るまでは。
なんだよあの魔帝。めちゃくちゃ強すぎるんだけど。あいつ、1人で神を超えてたんだけど。
そんな存在あり?
なるほど、だから神は俺を送ったのか。
そりゃあそうだよな。
いくら世界に干渉しないといっても、本当の本当に大ピンチだったら神自身が出向いたり上空から雷か厄災なんかで魔帝を殺すもんな。
下手に手を出すと返り討ちにあう可能性もあるから、俺を送ったんだろう。
いやぁ~まんまと騙されたよ。さすが神。男心をくすぐることが上手いなぁ~……。
俺はブルーサワーを一気に飲み干し、おかわりを店員に頼んだ。
1分も経たずにブルーサワーが届くと、俺はまた半分ほど飲む。
「はぁ……これから楽しい異世界スローライフが始まると思ったのに。騙されたよな〜……」
うなだれていると、不意にガシッと肩を掴まれる。
「どうした、兄弟!」
ガタイのよいおっさんが話しかけてきた。ゴツゴツの筋肉と革の鎧を着ているあたり、冒険者だろうな。あと、ちょっと汗臭い。
「そんな辛気臭い顔してると、酒が不味くなるぜ」
「はぁ……」
「生きている間しか酒が飲めないんだ。なら、楽しんで飲めなきゃ店に悪いぜ」
「ははは……」
苦笑いを浮かべることしか出来なかった。そんな前向きな気持ちで酒を飲んだことは、ここ数年一度もない。
「おい、名前なんて言うんだ?」
「三波啓介です」
「そうか! じゃあ、ミナミって呼ばせてもらうぜ。俺の名はテオだ!」
「はぁ……、テオさんよろしくお願いします……では」
俺はテオからコップに目を戻した。
「おいおいミナミ。俺ら、今日知り合ったばっかだけどよ。今日知り合った人だからこそ話せることもあるだろ。なぁ、話してみようぜ。そうすりゃあ少し気も紛れるかもしれない」
そうかもしれない。
話してみるか。
「実は―――」
カランッカランッと来客ベルが騒がしいほど乱暴にドアを開けられる。
誰だ、と思ってそちらを見ると、水色の長い髪をなびかせたグラマーな女性だった。
ぼーっと見ていると、なんとその女、俺の元へツカツカとやってくる。
―――なんだ?
「よくもやってくれたわね! 三波啓介っ!」
「え、はっ?」
あれ、なんでここに女神がっ……!?
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