さるかに合戦現代版

ナルナル

第1話

 冷たい雨の降る6月の昼下がり、蟹江凌かにえりょうは勤務先で母の訃報を知らせた。犯人はサイコパスとしか言いようのない残忍さを表していた。


 愕然とすると同時に言いようのない悲しみが凌を襲う。いつも優しかった母があんな無惨な姿に、、、


 すぐさま警察は重要参考人としてテニスコーチの猿田彦雅史を指名手配し、その日のうちに警察に連行したが、証拠不十分で三日目には釈放されてしまった。


 凌は納得がいかず、猿田彦に対して思い当たる節がありその日の晩小学校からの友人達を集めた。


 電気屋の栗山、文房具屋の蜂須賀、大工の臼田、肉屋の牛尾は凌と馴染みの居酒屋で復習のための計画を話し合った。


栗山「凌、辛いだろうが、お母さんが亡くなった時の状況を教えてくれないか」


凌「うん。母さんは毎週土曜日の夕方近所のおばさん達と猿田彦がコーチをしてるテニススクールに通ってたんだ」


「そして5月20日あれはよく晴れた土曜日の18時に2時間のレッスンが終わり最後に部屋に忘れものが無いか確認して更衣室の鍵をかけて帰るのが母の当番の日だった。他の生徒達が駐車場で待っていたらしいんだけど、いくら待っても母が来ないので、おかしいと思って見に行くと更衣室の鍵がかかっていた。皆はどこかですれ違って先に帰ったんだろうって解散してしまう」


「しかし、次の日の朝 管理人が掃除をしようと鍵を開けてシャワー室に入ると母が無残な姿になって倒れていた」


牛尾「帰る時、なぜ誰も鍵を開けて中を確認しなかったんだ?」


凌「鍵を持ってたのは当番だった母と管理会社と猿田彦だけなんだ」


「因みに管理会社はスクールから3kmは離れている」


牛尾「物音とかも無かったのかな」


凌「ちょうど皆が帰る頃 凄い夕立が来て、、、」


「皆んなが母を探しに更衣室前まで行った時は雨の音以外何も聞こえなかったって口を揃えて言ってる」


蜂須賀「しかし、猿田彦は何故証拠不十分で帰れたんだろう」


凌「しっかりしたアリバイがあるって話で、、、当日レッスン後に石田と新井が車で猿田彦をスクールまで迎えに来て3人で飯を食いに行ってるのをそこにいた生徒が皆んな見ていたんだ」


「それから近所のラーメン屋に3人の客が入ったのも確認がとれてる」


蜂須賀「そこまでアリバイがあって何故凌は猿田彦が犯人と睨んでるんだ」


凌「母は以前から猿田彦に金を貸してるんだ」


「前々からその話を母から聞いてて返してくれなくて困ってると言ってたんだ」


「それであの前日俺がスクールに出向き猿田彦に金を返すよう話をしたら逆切れして、あいつが俺にテニスボールをぶつけてきたんだ」


「あの時のあいつの薄ら笑い」


「もう一つ理由がある。母はダイイングメッセージを残していて消えかかっていたがARとかかれていた。たぶんSARUの前後の文字が消えたんだ」


臼田「猿田彦は気に食わない奴だが殺しまでするとは、、、」


牛尾「凌お前の気持ちはよく分かった。俺たちで猿田彦をとっちめて真実を暴こう」


そこにいる皆んなは凌を励まし、早速復習の計画を練り始めた。


猿田彦は昔から容姿に恵まれ、話も上手く女性にモテた。そのくせ正規の仕事はなく女性を騙してヒモのような生活を繰り返しているので男性からは評判がすこぶる良くない。


 男達は猿田彦がテニススクールのレッスンをしている間に猿田彦のアパートに忍び込むことにした。


 まず水道局に勤めている蟹江はアパートの大家に下水道の排水確認といつわり鍵を借りた。


 すぐさま栗山はまず携帯充電器を素手で触ると感電するものに交換した。


 蜂須賀は台所の椅子に画鋲がびょうを置く。


 牛尾は肉の油を台所に練りまくる。


 臼田は天井ボードを切り抜き、少しの振動で落ちるよう調整した。


 そして最後に栗山が電気設備とテレビを外部から操れるよう細工する。


 これらを一部始終確認出来るよう猿田彦達は部屋の中に何ヶ所かカメラを仕掛け外に停めてあるワンボックスカーから確認出来るよう全員で猿田彦が帰ってくるのを待った。


 猿田彦は夜9時位に帰宅してきた。部屋に入り物で溢れかえるいつもの自分の部屋を見渡す。


 猿田彦はまず1日使い続けて電池残量が少なくなったスマホを充電しようと台所のコンセントに刺した。


 その瞬間凄まじい火花が飛び猿田彦は100Vに感電し飛び上がる。


「うおおおっ」


 手を押さえながら台所の椅子に座ると尻に画鋲が刺さり飛び上がるが床が油まみれなのでおもいっきり足を上げて滑る。


 しこたま床に背中を打ちつけると、その振動で天井ボードが落ちてきて顔を直撃した。


 一連の流れを観ていたワンボックスカーの中の男達は歓声を上げた。


 最後の仕上げにリモートコントロールで部屋の電気を消す。


 猿田彦はふらつく頭を左右に振りながら電気が消えて驚いているが、同時にテレビだけがひとりでに点灯し、見慣れない古い井戸の映像が流れ始める。


 ここからはリングの映画から抜粋して車の中から流している。


 ゆっくり井戸から貞子が出てくるシーンだ。これに合わせてアレクサから音声を流す。


「私を殺したのはおまえか」

静かに問いかける。


ボイスチェンジャーで女性の声にしてある。


猿田彦「違う!」


「おまえか!」

少し声を大きくしてみた。


「違うんだー」


「でも俺が悪かった、ごめん、ごめんなさい」


そう言いつつ猿田彦は気絶してしまった。

 車で観てても貞子の恐ろしい光景に車内はなんともいたたまれない雰囲気になっていた。


「やり過ぎたかな」


 ここで猿田彦が完全に観念する予定だったのだ。


すると


 猿田彦のスマホが鳴り出した。しかし猿田彦は気絶しているので気づきもせず留守電になる。


相手のメッセージが流れた


「おい、猿田彦いつになったら金を返すんだ、今週中に返さなければ、お前も蟹江のように食ってしまうぞ、分かったな!」


 と、もの凄い怒鳴り声のメッセージが録音されスクリーンにニックネームが現れた。


 車内は静まり返り凌達はその画面を観て犯人が誰か完全に理解した。


 次の週の月曜日警察は1人の男を逮捕し、猿田彦を共犯者として再逮捕した。


 主犯は新井だった。実は事件当日猿田彦を迎えに来たのは2人ではなく、もうひとり鈴木が同乗していたがシートを倒して寝ていたので誰にも気づかれなかった。


 新井は猿田彦から更衣室の鍵を借りて車から降り、更衣室に忍び込んだとき更衣室の中から鍵を掛け中にいた蟹江を襲う。


 ちょうど降ってきた夕立に合わせてシャワー室で蟹江を殺害し、切り刻み食した後死体を綺麗に洗い更衣室の鍵を外からかけて逃走したのだった。


 新井の本名は新井熊夫 25歳 職業 金融業。ニックネームはラスカル。


ダイイングメッセージはARAIのAIが消えていた。


新井の幼少期を知る人からは

「あんな可愛らしく、素直だった男の子が、、、」


「信じられない」と言った声が寄せられている。


 彼の自宅からは標本のように美しく磨き上げた行方不明者の白骨死体が2体見つかり、まさに快楽殺人のサイコパスとして第一級殺人罪で今も府中刑務所に服役している。


 彼は最近趣味の洗濯を獄中の仕事としているとのことである。


END


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さるかに合戦現代版 ナルナル @kotanaru

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