Episode3-A 金の指輪、銀の指輪

 ジョンという名の若い男が、鼻歌を歌いながら上機嫌で泉のほとりを歩いていました。

 ジョンは手を入れていたズボンのポケットの中にあった指輪をついうっかり泉に落としてしまいました。


 思わぬアクシデント。

 ポチャンという音を立て、指輪は泉の中に吸い込まれていきました。

 惜しいことをしたとは思いつつも、こうなってしまっては仕方ないと早々に諦めたジョンは、泉から立ち去ろうとしました。

 

 その時です。

 お約束の展開というべきでしょうか、泉から女神様が現れたのです。

 女神様の出現という常識ではあり得ない現象よりも、ジョンが今までに目にしてきた女たちの誰一人として、その足元にも及ばないであろう女神様の美しさに、ただただ目を奪われてしまいました。


 さらにお約束の展開はまだまだ続きます。

 女神様はジョンにこう問いかけてきました。


「あなたが落としたのは、この金の指輪ですか? それとも、この銀の指輪ですか?」


 もちろん、ジョンが落としたのはそのどちらでもありません。

 ですが、ジョンは女神様に答えました。


「…………すいません。もう少し近くでそれらの指輪を見せてもらえないでしょうか? 斧とかなら大きいから多少の距離があっても判別できるんですけど、指輪は小さいので確認しようにもこの距離ではよく見えないんですよ」


 女神様はジョンの言うことを親切に聞き入れ、泉のほとりにいるジョンの方へとスイスイーッと近づいてきてくれました。

 ジョンと女神様の距離が、互いに手を伸ばせば触れられるほどにまでなった時です。

 

 ジョンは突然に女神様の腕をバッと引っ張り、瞬く間に自身の体の下へと組み敷いた挙句、のしかかりました。

 悲鳴をあげる女神様の口にボロボロの使い古したハンカチを押し込んだジョンは、ニタリと笑います。


「さっき落とした指輪なんて、どうでもいいんだよ。俺が数日前に犯して殺した人妻が身に着けていた安モンだしな。しかし、あんた……女神っていっても、そのツラが飛び抜けて綺麗なだけで、腕力も俺に襲われた時に見せる反応も”人間の女たち”とそう変わりないんだな。まあ、その方が滅茶苦茶にするのに都合がいいけど」



(完)

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