第13話 神器の出し方

優男が取り出した真っ赤な刀身の剣を見て……ため息が出る。どいつもこいつも血気盛ん過ぎる。


「お前も俺と戦うのか……?」


「ハッ。俺とお前で果たして【戦い】と呼べるものになるのか分からねーがなぁ。なにせ、これから始まるのは一方的な蹂躙だぜ。ほら、才能の違いを教えてやるよ。不審者、お前も神器を出してみな」


「神器……ああ、そうだ。それさ、出すのになんかコツとかいるのか?」


「ハァ?」


優男が今度はとびっきりに表情を歪めた。


「おいおい、まさか女神洗礼の儀式を受けてないなんて言いやしねぇよなぁ?」


いや、受けてないんだよな、たぶん。


「たとえどれだけのカスだったとしても、あのゴウキはプラチナランクだ。神器も持たねぇクソカスに負けるなんてことはあり得ねぇ」


殴り倒しただけだし使ってないんですよ。神器。どうやったら出るんだ? そういえばゴウキとやらもここに来るまでの冒険者も、そして目の前のコイツも剣の名前らしきものを唱えていたけど…… 


……いやでも俺、自分の大剣の名前も知らないしなぁ。


「無視かぁっ!? いつまでも付き合ってやると思ってんな! 吹き飛べや!」


俺が考え込んでいる間に、優男がベニアラシとやらを振った。すると赤い粒子状の光が俺の視界一面を覆うように飛んできて──さく裂した。激しい爆竹の音だ。


……ケムたい。


「……どういうことだ? 手加減し過ぎたか」


連続した小爆発、それをまともに受けても立っている俺をみて、優男が舌打ちする。


どうやら赤い粒子はそのひとつひとつが火薬のような役割を果たすらしいな。おかげで服がかなり焦げついてしまった……これ一着しかないのに。


「遊びは終わりだ、不審者。お前を終わらせたら次はテメェの連れとかいう行商人だ」


「は? 俺の連れがお前に何の関係がある?」


「あるさ、そいつのためにお前はここまで来た。そいつのせいで俺が要らんストレスを被った。充分な理由だろうがよぅ」


優男は俺を挑発するようにニヤリと口元を歪める。


「才能も努力も要らねぇリスクだけ取ってりゃ成り上がれるカスの行商人ふぜいがよぅ、この俺に損害を与えてるんだ。許せるわけないだろ? これから"俺の"商会で首輪をつけて、一生かけて償わせてやる」


「……お前はさ、その自分の言動に正義を持ってんのか?」


「ハァ? 当然だろ。俺が正義だ」


その答えを聞いて確信した。コイツは、この優男は本気でそう思っているのだと。


……前の世界で、日本で俺が捕まえた中にも同じようなヤツらがいた。そういうヤツらはみな、自分より弱い人間が本気で自分の土台になるためだけに存在すると信じていた。


目の前のコイツも、そいつらと全く同じだ。


「いいか、俺には才能がある。それは生まれ持った強者の才能だ。俺はこれまでただ1度として敗けたことなんて無い。そんな俺だからこそ女神も選んでこの特別な神器を渡したんだ」


優男がベニアラシを掲げると、先ほどよりも大きな赤の粒子が辺りに漂った。


「どうだ? 対象に触れさえしない……まるで魔人どもが振るう魔法並み、いやそれ以上の力を振るえるこの神器の力はよぅ。英雄の資質があるぜ。そんな俺が正義じゃなくて何なんだ? その俺の邪魔をするヤツらが悪じゃなくて何なんだ?」


「ああ、もういいよ。お前の正義のことはわかったよ」


「そうかい、じゃあ潔く吹き飛ぶかぁ?」


「いや、吹き飛ぶのはお前だ。正義の英雄ヅラした小悪党が」


フツフツと、腹の底から湧き出す感情があった。それは怒りに似ていたけど、それだけではないもの。日本で刑事をやっていた俺を突き動かし続けたもの。俺の中の【正義】の心。


「俺はお前にとっての悪でいいよ」


いつの間にか俺の右手には、あのスライム系の魔族の相手をしていたときと同様に白く熱いエネルギーが宿っていた。


……出てこいよ、剣。


心の中で呼びかけると、大剣が俺の手に収まった。


「ハッ! やっぱり持ってるじゃねーか、神器! にしてもデケぇ、バカデケぇ……ゴウキのものよりデカい神器なんざ初めて見たぜ。振れんのかぁっ?」


優男がベニアラシを振るう。再び赤い粒子が俺に襲い来る──俺はそれら全てを、大剣を振るって出した風圧で押し返した。


「──ッ!?」


爆発音が連続する。優男が煙を吐いて、何が起こったか分からないみたいに目を白黒とさせていた。


俺は続けて逆方向、先ほど振るった剣を返すようにして、優男の胴体を目がけて大剣をいだ。


ミシリ。一瞬、優男の体の軋む感触が大剣を通じて伝わってくる。その後、思い切り弾かれたピンボール玉のように優男は壁を突き抜けて廊下に転がっていった。


「……やっぱ、この大剣が神器なんだよな、俺の」


またもや出現したその大剣を、今度はまじまじと見てみる。


……ずいぶんとデカい。刀身だけで2メートルはあり横幅も俺以上。その色形は灰色の四角柱なので、斬る用途には使えそうにない。相手を叩き潰すためにあるとしか思えない大剣……いや、それはもはやハンマーなのでは?


でも、とりあえず呼び出し方はわかった気がする。この神器を呼び出すためのエネルギーのようなものは俺の中のひと際強い気持ち……正義心に反応していたようだ。たぶん、ソレがキーになっているのだと思う。


……だとすると以前のゴウキとかいうやつは【戦いを求める意思】で、さっきの優男は【自分自身への絶対的な信仰】とか、そんなところだろうか。


「まあアイツらのことはもうどうでもいいか、倒したし」


俺の目的は別にあの冒険者の成敗などではない。


俺は部屋の隅で縮こまったまま呆気に取られている3人の男たち──町長、組合長、そしてオブトン商会長へと視線をやった。


「じゃあ、じっくりと腰を据えて話し合いましょうか。お三方」


俺の言葉に、三者三様ではあるものの、グッと息を飲み込むような音が聞こえた。

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