第41話 そして、過去へ
俺と柚葉はユニフォーム姿のまま、校舎に向かって歩いていた。
「雨降りそう」
「そうだな」
空を見上げると今にも降り出しそうな雲に覆われていた。
「雨降ったら順延だっけ?野球とサッカーは」
「確かそう、去年の前。
あやせさんが一年生の時は午後に大雨降って中止になって、次の日にやったらしいよ」
「そういえば、そうだったような」
俺としては順延だと休めるからありがたい。
「そういえばさ、水族館、火曜なら行けそうなんだけど、空いてる?」
「火曜はじいちゃんいないから休み」
「よかった」
水族館デートが正式に決まり、俺の胸は高鳴る。
「ねぇ、そこ座らない?」
「いいよ」
柚葉の表情はまるでこの世界で自分だけがひとりぼっちだとでも言うように信じられないほど沈む。
水族館デートの話を深掘りと言うわけではなさそうだ。
俺は微笑み返し、ベンチに腰を下ろす。
「留学の話黙っててごめんね」
「驚いたけど、行きたいんだろ?」
「夢のためだからね、たださ、やっぱり早く行って早く帰って来たいんだ」
表情と言葉から読み取るに本当は長期での留学だったが柚葉の気持ちが留学に向いてなかったため、短期留学になったんだろう。
「折角恋人同士になれたんだよ、ホントは行きたくないよ」
柚葉は俺の膝を枕にコロンと寝転がった。
俺だって、叶うなら引き留めたい。
「水族館だけじゃなくて、もっといろんなところに行きたいし、もっといろんなことやりたい」
「行きたくない」
俺の膝を抱きしめ、涙で声を震わせる。
気持ちは痛いほど分かる。
だが...
「俺もそうだよ、でもさ」
「でも?」
「俺との約束はそれしたら叶わない。
柚葉。
柚葉は約束破る女か?
違うよな?」
俺たちの夢。
それは俺は野球で、柚葉はテニスで世界の頂を獲ること。
この夢を叶えるためなら俺たちはどんなことでもする。
「そうだけどぉ」
「心配すんな、俺は柚葉以外の女の子に自分から行かない」
「来られたら?」
「いつも通りだよ」
「ホント?」
「ホント」
例えば英玲奈達が告白して来ようといつも通りだ。
まぁ、アイツらに限ってそんなことはないと思うが。
「じゃあ、がんばりゅ」
「この泣き虫め」
「だってぇ」
柚葉がこんなに頼りないのはいつ以来だろう。
あぁ、そういや、こんな感じだったな。
あの頃は。
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12年前
「しょー、ゆずとあそぼ!!」
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