第31話 素振り

鳴り響く金属音。

こんな近くで翔の打球音を聞くのは久しぶりだ。


「夏葉ちゃんへの指導終わっても毎日振ってんだ」

「まぁな」


汗を拭い、足元に置いてある水を飲み干す翔。


「何回?」

「1000」


1000回かぁ、アタシじゃ出来ないな。

アタシ、ティーバッティング好きじゃなかったし。


「アタシは500」

「素振りでそれキツくね?」

「まぁ、習慣化してっからね、もう」


家にテニスコートでもあれば良いんだけど、東京じゃそんな敷地はまずない。


「なぁ、柚葉、トスあげてくんね」

「いいよ」


今日は記念すべきカップルになった日なんだけど、野球より優先順位が高くはならないのが翔だからしょうがない。

アタシは立ち上がり、ティーを退ける。


「スイングスピード上げないでくれる?怖いから」

「テンション上がっちまったんだよ、リトル以来だから、柚葉に上げて貰うの」

「そっか、ならもっと上げていいよ」


空を切り裂く音が全く別次元になった。

単純に恐怖を覚える速さだ。

アタシは尻餅をつき、思わず苦笑い。

でも、翔は楽しそう。

しゃーない、このレベルに付き合ってやるか。

リトルの頃みたいになれたら最高だし。


「翔、明日はアタシの素振りに付き合ってね」

「あぁ、これから毎日付き合うよ」

「ありがと」


習慣化してると言っても何か刺激がないと退屈なものだ。

翔にずっと見てもらう刺激か、良いね。

もっと速く打てそう、サーブもレシーブも。


「あら、マグくん来た、翔終わりにしよっか」

「あぁ、ちょうど終わった」

「ナイスタイミングだよ、マグくん」


ガラスを爪でガリガリするマグくん。

まさか、終わる時が分かるんだろうか。

いや、そんなわけないか。

アタシは笑顔を向け、マグくんを抱っこする。


「にゃあ」

「にゃん」

「にゃ」


マグくんを挟んで二人で写真に収まり、肉球ポーズ。

勿論表情は二人とも満面の笑み。

アタシと翔は待ち受けに設定する。

お揃いだ。

それになんか、夫婦みたいだね、これ。

ーーこれから毎日撮りたいな♡

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