第30話 趣味
「早く届かねぇかな」
入浴をパパッと済ませ、脱衣所でドライヤーをかけるアタシ、水野海は兄貴に頼んで貰ったとあるブツのことを思い出す。
アタシ、兄貴、親父はとあるブツを作ることが大好きで今でもかなり仲が良い。
「海、届いてたぞ」
「マジか!」
「俺の部屋にある」
「行く!」
風呂から出て、自分の部屋に行こうと階段を上がっていると今は無職だが先月まではちゃんと働いていた兄貴が手招きする。
アタシはテンションを上げ、階段をダッダッと駆け上がる。
「彼方、俺のは?」
「知らん」
「貴方のも届いてたわよ」
「彼方、お前どこ行ってた」
「散歩」
親父は兄貴に厳しい。
というか、親父も買ってたのかよ。
別の業者が届けてくれたんだろうな。
「かっけぇ」
「だろ?、今日は多少夜更かし出来るんだよな?
途中まで作ろうぜ」
「海、こっちは?」
「そっちも捨てがたい」
とあるブツとは人気ロボットアニメのプラモデルと戦艦のプラモデル。
そう、アタシ、兄貴、親父の趣味はプラモデル作りだ。
「1時までには寝なさいよ?」
「はーい」
母さんは反対というわけではないが好感を持ってはいない。
理由は簡単で夢中になると他のことが手につかなくなるから。
特にアタシはテスト期間中やバスケの試合前に作ることを禁止されている。
「この積んであるのどうにかしないとな」
三階のプラモ専用部屋に入るとアタシのネームプレートが貼られた棚にいつも最初に目が行く。
完成したのを見たいだけなら兄貴や親父に作ってもらえばいいんだけど、アタシは作る方が好きだからそうはいかない。
この積みプラ、ホントにどうしよう。
これからもバンバン増えそうだし。
「今日、小さいの作れば?」
「そうだな」
短時間で作れる小さな箱を手に取る兄貴。
受け取ったアタシは頷き、テーブルに置く。
「なんかさ、プラモ作ってる時は小さい頃の海がいるって感じすんだよ、わかる?」
「わかる」
箱から出し、袋を破って、ニッパーを手に取り、説明書をランナーの横に置き、作り出すと手を止め、微笑み掛けて来る兄貴と親父。
「小さい頃ってなんだよ」
「にぃに〜って、甘えてくれた頃」
「パパ〜って、膝に乗ってくれた頃」
「顔赤くしちゃって、可愛いな海」
「海、ホント可愛いぞ」
「連写すんな、バカ...」
顔を真っ赤にするアタシにスマホを向ける兄貴達。
アタシは手で顔を隠すのが精一杯だ。
ーー確かに甘えん坊だったけど、い、今はちげぇし。
「部屋で作る」
アタシは箱やニッパーを持ち、立ち上がる。
「翔にも言われたけど、そんな可愛いのか?
プラモ作ってる時のアタシって...」
実は親父と兄貴だけじゃなく、翔にも言われた。
プラモ作ってる時の水野、なんか可愛いなって。
「可愛いなんて何度言われてもなれねぇよ...」
机に顔をつける。
まだ顔は真っ赤だ。
ーーなんで可愛いなんだ、アタシ、女子らしさねーじゃん。
可愛いは絵里とかに合う褒め方だろ...
────────────────────
一之瀬家
「やったね」
私、一之瀬絵里はテレビ画面を見て、微笑む。
「翔くん、早く買ってくれないかな、このゲーム」
私が今やってるゲームは人気のFPSでシリーズ化されている。
翔くんは前作を持っているけど、今、私がやってる最新作は持っていないから協力プレイができない。
早く一緒にやりたい。
一緒にやって、ゲーム沼に翔くんを引きづり込みたい。
ーー私が買ってあげようかな、誕プレで
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