第11話 波乱①
「英玲奈!」
「翔!」
「すっげ」
「ベストパートナーだな、シー」
本番を想定した練習に入ると益々2人の息は合っていく。
今なんて、男子に高さで負ける英玲奈ちゃんの弱点を突かれないために翔くんが某バスケアニメを見て真似しようと言った技が成功した。
何をどうやったらいつもは横に出すパスを上に出して、空中上でキャッチするなんて出来るんだろう。
「なぁ、俺らと試合しねぇか?」
「英玲奈〜、やろうよ」
「あぁ、いいぜ」
「負けた方が学食奢りね、全員分」
「ぜってぇ負けねぇ」
ボールを持って来たのは5組の田中くんと佐々木さん。
2人は野球部とバスケ部。
翔くんと英玲奈ちゃんはノリノリで受ける。
「とりま俺と英玲奈、水野が攻撃、浅野と楓が守備な」
「あの、私は?」
じゃんけんでリーダーに決まった翔くんは私を外し、すぐに背を向けた。
私は立ち上がり、問う。
「お前、俺にパス出さねぇじゃん、わざとだろ。
バレてんだよ、そんな奴とやりたくなくね?」
「翔が悪い」
「は?」
「翔が悪いから謝らない!」
私は悪くない。
悪いのは全部翔。
翔が英玲奈ばっかり構うから私は怒っているんだ。
「あっそ、行くぞ英玲奈、水野」
「バカ!」
「あのな、お前がパス出しとけば済む話だろ!」
「いっ!
知らない!先に仕掛けたのは翔くんなの!」
いくらため息を吐かれたって、睨まれたって、私は絶対屈しないし、負けない。
私は近くにあったボールを思い切り投げた。
なんなく避けられてしまったあげく、投げ返されて、足に当たって少し痛いけど、少しスッキリしているから不思議だ。
「えりち、水飲んで来な、機嫌悪い理由はなんとなくわかるけどさ、球技大会は楽しみたいじゃん」
「そそ」
再び座ると英玲奈ちゃんと水野さんが
私を挟むように座り、背中を摩ってくれる。
やばい、少し泣きそうだ。
「うん」
「戻って来なよ」
「待ってるからな」
私は小さく頷いて、目の下あたりを腕で拭くとふぅと呼吸を整えるように息を吐き捨て、自動販売機がある場所まで歩くことにした。
2人は軽く背中を叩いてくれる。
「はよ」
「うぃー」
「相良〜、お前女心わからなすぎだろ」
「どこがだよ」
「可愛い子は構ってあげないと」
「めんどくせぇな」
「えりちのこと蔑ろにしてるとホントに嫌われるよ」
「そうだぞ、そしたら絶対お前困るぞ」
「そんなもんかね」
「だから、戻って来たら構ってあげな」
「わかった」
「よし、いい子だ」
「上からだな」
「だって、女心全くわかってないんだもん」
「下だろ、普通に」
「...」
「ありがとう、英玲奈、海」
翔に呼ばれた2人はコートに入ると翔のお尻を蹴ったり、脇腹を肘で突いたりして、私をスッキリさせようとさせてくれる。
私はクスッと笑い、体育館を出た。
何飲もうかな、少し甘いのが良いかな。
「可哀想だよな、椎葉」
「なんで?」
「俺さ、さっき聞いちまったんだよ、アイツ調子乗ってるから少し男子使ってわからせてやろうって」
「うわ」
「相良もついでにとか言ってたような」
「一年こわ」
「嘘」
りんごジュースを買い、行儀は悪いけれど、歩きながら飲んでいるとすれ違った二年生の先輩たちの会話が聞こえてきた。
そうか、だからうちのクラスとあんまり関わりないがない5組のあの2人なのか。
「どした?んな怖い顔して」
「新凪さん、これ持ってて!」
「わかった、マジでどした?」
「話は後で」
走りだそうと床を勢いよく蹴った瞬間、3年の雪平新凪。
通称新凪さんとぶつかりそうになった。
グッドタイミングだ。
私はりんごジュースを預け、全力で体育館へ向かう。
「おいおい、なんで椎葉のとこばっかり運動部の男がガードして、相良は文化部女子に無理させてんだよ、こんなの向かって行ったら怪我じゃんか」
「汚ねぇぞ、田中!」
「春乃、真剣勝負しろ!」
体育館に着くと周りがドン引いたり、ヤジを飛ばしたりする。
「楓!浅野!海!そいつら英玲奈と翔を怪我させる気だよ!!
このワンプレー終わったら私が2人のどっちかと変わるからまずは英玲奈ちゃん下げて!」
私は思い切り叫んだ。
涙が溢れる。
私には相手のラフプレーによる怪我で野球を辞めざる終えなかった過去がある。
その時、救ってくれたのが翔くんと英玲奈ちゃん。
2人は言ってくれた。
俺と私が絵里の分も絶対活躍するって。
だから、私は2人には絶対に怪我して欲しくない。
────────────────────
「英玲奈下がれ!」
「椎葉!俺の後ろ入れ!」
「チッ、余計なことを
ただ...行かせねぇよ」
水野と浅野が叫びながらジェスチャーを加える。
だが、英玲奈は後ろを取られてしまう。
田中、こいつホント小物だな。
「どした、椎葉、来いよ」
「ありがと、絵里」
「は?」
「座れば、怪我なんてさせようがないでしょ?」
「チッ、佐々木!」
普段はバカな英玲奈だがバスケをやっている時は別。
バスケをやっている時の英玲奈はとんでもなく頭がキレる。
英玲奈はその場にゆっくりと腰を下ろすと絵里に満面の笑みで微笑みかけた。
ホントすげぇわ、コイツ。
田中は舌打ちし、佐々木さんを睨む。
「佐々木、お前高校からだよな」
「だから何さ」
「知らない?俺元バスケ部、試合には出てないけど、俺が1番上手かったの」
「は?」
ディフェンスに入ったのは睨まれた佐々木。
女の子相手に本気出すのは趣味じゃないんだが、コイツを崩しておかないと英玲奈の元に行ってしまうからしょうがない。
「これ、アンクルブレイクって技ね。
どう?かっこいい?」
「チッ」
俺は超高度テクであるアンクルブレイクで交わし、田中の元へ全力で走る。
尻餅をついた佐々木は田中と同じように舌打ちすると悔しそうに顔を顰める。
「田中ァ、負け犬根性極まれりだな」
「調子乗んなよ」
「ごっめん〜、負け犬に礼儀正しくとか教わってないわ、ほら、とってみ」
「遅い、遅い」
「ハァハァ」
こいつも高校からだから俺の腕を知らない。
今のは女子相手だからとでも思っているだろう。
だから、素人のようにスティールしようとする。
俺は交わし続け、息が上がり切るのを待つ。
「つまんな、飽きたわ」
「バケモンかてめぇ...」
俺はニヤけ、全速力ドライブで抜き去った。
ーーここで終わりじゃねぇけどな
「バケモンは俺じゃねえ、コイツだ、負け犬。
英玲奈!」
俺はいつの間にか立ち上がり、スリーポイントを打つ体勢を作る英玲奈の手に向かって、サッカーのループシュートのようなパスを出す。
────────────────────
「何、アンタそんなことも出来んの...?」
「Chu!!天才でご・め・ん!!」
尻餅をついたまま、驚きで固まっている佐々木が声を漏らす。
私は手にボールが来た瞬間、スリーを打ち、綺麗に着地し、ウインクした。
「ナイス、英玲奈」
「イェーイ!!」
そして、翔とハイタッチ!
これがベストパートナーの実力!!
────────────────────
「サンキュ、ごめん、俺が悪かった
ジュースでも買いに行こうぜ」
「うん」
試合が終わり、無事に帰って来た2人は私をギュッと抱きしめてくれた。
ーー最高に気持ちぃよ、2人とも。
「ありがと、えりち。
ご飯は私が奢る」
「ありがと」
「英玲奈、俺が飯で」
「男のプライドだね。
えりち、豪華なの奢ってもらいなね」
「Aセットね」
「デザートもつけていいぞ」
「やった」
今日のお昼はとても豪勢な上に大好きな人からの奢り。
最高だ、毎日こうだったらいいのに。
「絵里、いつもありがとな」
「うん、どういたしまして。
これからも頑張って行こうね」
「あぁ」
翔くんとグータッチ。
行こう、2人で支え合って甲子園。
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「一之瀬、覚えとけよ」
舌打ちをする田中。
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