第2話 朝②

学校生活を豊かにするために必要なのはカーストトップとは言わないまでもカースト上位に居続けることと誰もが理解しているだろう。

だが、ラノベに出てくるような絵に描いたような陰キャが思ってるであろう、上位にいるからノンストレスなんてことはない。

上位に居続けるというのは上がってこようと足掻く同級生や先輩を倒し続けなければならないからだ。

意地の悪い嫌がらせなど、目に見えるものなら対処は出来る。

だが、今の時代、中にはSNSで陰口を拡散する奴もいる。

ほら、よくあるだろ?

有名アスリートや有名人が過去の出来事をあれこれ言われること。

あれが1番めんどくさいんだ、止めようがないからな。


「翔くん、なんかした?」

「いや、なんもしてない」


絵里がスマホの画面を見せてくる。

画面には「相良のやつ、もう2、3人食って、今度は絵里に行くらしいぜ」という文章。

それも5、6件。

俺はため息を吐いた。

まだ一年の4月でこれだ、夏前くらいには相良翔はヤリチンクソ野郎とか書かれるんじゃないか?


「あー、ヤリチンだー

えい!!!」

「いって!!!

てめぇ、英玲奈!!カバンに何仕込んでやがる」


同クラにして、女バスの特待生。

そして、中学からの腐れ縁。

椎葉英玲奈エレイナが俺の背中目掛けて、回転しながらカバンをぶつけて来た。

鈍器でぶん殴られたような痛みが背中に走る。


「スパイクケース」

「お前、バスケ部だろ」


なんでバスケ部のくせにサッカーのスパイクを持ち歩いてるんだ、こいつは。

しかも、スパイクケースって、普通四角形じゃないだろ。


「今日、体育でサッカーやるから姉貴の借りて来た」


笑いながら言ってる時点でコイツの脳みそは筋肉で出来ていると確信出来る。

体育如きでスパイク履いてやるやついるか?


「スパイク使わないよ?」

「え、嘘!だって、楓が使うって」


ガチか、ガチなのか...

バカすぎるだろ...


「おいアホ、帰って、戻して来い」

「なんだと!?」


バカは失礼なのでアホと言っておく。

まぁ、当然、英玲奈は怒るんだがバカと言ったら絶対に蹴りが飛んで来るから詰め寄られる方がマシだ。


「ホントに騙されるとは思わなかった。

おはよ、翔、絵里、先行くね」

「楓、待てコラ!」

「ばーか」

「コノヤロ!」


楓は吹奏楽部にしては足が速い。

バスケ部でかなりスピードを評価されている英玲奈が追いかけても差は広がるばかりだ。

にしても、楓のあっかんべー、可愛いな。


「朝からハーレムかよ、翔」

「お前の横にも三人いるけどな」

「ゴリラ3匹だけどな!」


ゴリラ3匹を連れて来たのはサッカー部で早くもレギュラーを掴んだ浅倉海斗。

海斗は昔からゴリラ的な男性にモテるんだ。

なんでだろうな。


「しょうがないだろ、柔道部の三傑なんだから

匹はやめてやれ、一応ゴリラに近い人間だろ」

「ポーズ取るんじゃねぇ!」


ゴリラ君たちがワイシャツを脱ぎ、ボディビルダーのようなポーズをとる。

絵里は俺の後ろに隠れ、顔を左手で覆い、右手で俺のブレザーを掴む。

ちなみに周りの女子も視線を逸らしている。


「絵里ちゃん、君も筋肉教に入信しないか?」

「やめろ、バカ、誘うなら女子柔道部にしろ」


俺は後ろを歩くメスのマウンテンゴリラ集団を指差す。


「あんなゴリラはダメだ!」

「同類同士仲良くやれよ」


海斗は腕を組み、ゴリラをじーっと見つめる。

するとすごい足音で...


「隆〜」

「マウンテンゴリラァァァァ!!」


ゴリラ集団は逃げていった、ゴリラ集団に追いかけられて。


「よかったな、サバンナから日本に戻って来れたぞ」

「ねぇ、ゴリラと歩くのやめてくんない、海斗」

「ごめん、有紗」


話しかけると既に海斗の視界に俺はいなかった。

海斗の視界にいるのは彼女の木下有紗だけだ。


「私までゴリラの仲間だと思われたらどうすんのよ、ほら、行くわよ」

「はーい、じゃあな」


海斗は俺と絵里に手を振る。

俺と絵里は手を振り返す。


「ゴリラにならないでね!」

「わっーてる。」


心配しなくても自ら進んで非モテの道になんて行かない。

そのために坊主じゃないこの学校を選んだわけだしな。


────────────────────


「可愛い弟だなぁ、ホント」

「何やってんの、あやせ」


私は可愛い弟を見ながら微笑む。

あのつぶらな瞳、ほんとしゅき。

彼氏にしたいよぉぉぉ!!


「うん?弟を見てたの」

「ブラコン」

「褒め言葉ありがとう、新凪ニナ

「褒めてない」


新凪はバレー部の同期にして、幼馴染。

昔は新凪も弟と仲が良かった。


「あら、そうなの?」

「そりゃそうでしょ、早くいくよ、もう皆着替え終わったから」

「はーい」


私はイヤイヤ背中を追う。

いくら部長だからって、戸締りまでやらなくちゃいけないのはおかしいと思う。

だって、そんなの顧問の仕事じゃない?

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